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成年後見制度が大きく変わります

 成年後見制度は、認知症、知的障害、精神障害、高次脳機能障害などの精神上の理由により、課題や困難を抱える方を支援する制度です。今年(2026年)6月に現行制度を抜本的に見直す改正法が成立しました。2028年頃に新制度がスタートします。

1 なぜ改正されたの?

 現行の成年後見制度は、2000年4月から始まっていますが、それから四半世紀以上が経過し、いくつかの大きな課題、利用者からの不満や不安が指摘されていました。
 代表的なものは以下の点です。
(1)終わらない:一度利用を始めると終了せず、事実上終身制となっている。 
(2)広すぎる:後見人の権限が広く、本人の自由な自己決定が必要以上に制限されてしまう。
(3)制約される:後見人等が本人の意思を十分に確認せず、決めてしまうことで本人の自己決定が制限されることがある。
(4)代わらない:本人のニーズが変わったり、後見人と相性が合わなかったりしても、途中で後見人等を交代しにくい。

 さらに、国連の障害者権利委員会からも、日本に対して、本人の意思決定を代行する制度である成年後見制度を廃止し、本人の意思決定を「支援」する制度を中心とすべき旨の勧告が出されていました。
 こうした状況を踏まえ、改正の方向が議論され、抜本的な改正を含む民法改正法が今年(2026年)6月に成立しました。

2 法定後見制度の主な改正点

 これまでの「後見」「保佐」「補助」という3つの類型を廃止し、すべて「補助」に一元化されます。

①必要な権限を個別に選ぶ
 本人の生活状況や困りごとに合わせて、必要な代理権や同意権(取消権)を個別に選びます。「福祉サービス契約」「遺産分割」など、必要性のある権限を選んで付与されます。

②本人の意向をより尊重する制度へ
 制度の利用開始、代理権や同意権(取消権)の付与にあたっては、原則として本人の請求又は同意が必要となります(本人が同意できない場合は別)。
 また、補助人は、本人に情報提供を行い、本人の好みや希望を含めた「意向」を把握する義務があること、それを尊重して職務を行うべきことが明確に義務付けられました。
③「終わることができる」制度へ
 「一度始めたら一生続く」制度から、必要性が消滅すれば終了できることとなりました。本人の判断能力が回復した場合だけでなく、「遺産分割の手続きが無事に終わった」「施設に入所して消費者被害に遭うリスクがなくなった」「保険金請求の手続が完了して、保険金を受領できた」など、制度を必要とした具体的な理由、必要性が解消された場合は、途中で利用を終了することができるようになります。
 ただ、預貯金管理や入居施設との契約などの継続的な課題がある場合、終了後の本人の生活や財産管理に課題が残らないか、本人保護に欠けることがないかについては、検討が必要です。
 福祉分野での新しい補助制度に代わるべき新たな受け皿も検討され、社会福祉法等の改正も行われました。今般の成年後見制度の改正は司法と福祉の一体的改革と言われていますので、それぞれの地域での地域福祉の在り方、福祉サービスの状況にも注目しましょう。
④柔軟に補助人を交代できる
 今までは、横領などの明らかな不正行為がなければ後見人の解任は困難であり、後見人の自主的な辞任を待つ必要があり後見人の交代がなされづらいという問題がありました。新制度では、「本人の利益のために特に必要がある場合」には、家庭裁判所が補助人を解任できることとなりました(但し欠格事由にはならない)。
⑤特定補助人について
 包括的に取消権が付与される「特定補助人」を付する審判も新設されています。これは「事理弁識能力を欠く常況にある者」につき、必要とされる取消権の対象である行為を特定できず、預金取引や贈与契約、重要な財産に関する契約など、包括的に取消権を付与する必要性がある者について、特定補助人を付するとするものです。

 個別の取消権では足りず、包括的な取消権付与の必要性が必要です。また、代理権付与は別であり、例えば預金取引の代理権付与については、その必要性がある場合に、別途、代理権付与の審判申立てが必要です。

 このように特定補助人は、現行の成年後見人とは全く異なります。また、限定的、厳格な運用が期待され、原則として鑑定手続き(または少なくとも医師二人の診断)が必要とされています。 
⑥成年後見と保佐は廃止 
 改正法が施行されると成年後見と保佐は廃止されます。ただ、現在から施行までに開始した成年後見と保佐は、そのまま続くこととされています。その場合、成年後見人・保佐人は、①そのまま旧法適用のまま、②新制度に移行して新制度の補助人となる、あるいは③制度利用の必要性が消滅していれば、制度利用を終了する、の3つの選択肢があることとなります。

3 任意後見制度の改正点

 元気なうちに自身の将来の支援者を自分で選んでおく任意後見についても、改正が行われました。

(1)任意後見監督人が必須ではなくなりました。
 これまでは、任意後見契約を発効させるためには「任意後見監督人」というチェック役を必ず選任する必要がありましたが、明らかに任意後見監督人による監督の必要性がないと認められるときは、任意後見監督人の選任を不要にすることができるようになります。その場合は、家庭裁判所が直接監督することとなります。

(2)法定後見との併存が認められます。
 これまでは、法定後見と任意後見は、原則として任意後見が優先し、どちらかの利用しかできないとされてきました。しかし、改正後は、新制度の「補助」と任意後見を重ねて併存利用することが可能になりました。任意後見人の代理権が不足していた、などの場合、その権限だけ新制度の補助人に付与して困りごとを解決する、ということもできるようになります。

(3)受任者に順位をつけられるようになりました。
 複数の人と任意後見契約を締結し、それぞれの受任者の順位を定めておきたいとの希望がかなえられます。Aさんに任意後見人になってほしいけど、Aさんが任意後見人になれない場合はBさんに頼みたい、という場合、Bさんのことを「予備的受任者」と言います。これまでは、Bさんに自発的に遠慮してもらうしかなかったのですが、Bさんとの任意後見契約の中に「Aさんが受任できない場合だけ契約を発効させる、そうでなければ任意後見を開始しない」という「不開始の合意」を規定しておくことができるようになりました。
 その他にも、任意後見監督人選任につき、本人の意向を尊重することが明記されるなど、より本人の希望に寄り添った選択ができるようになります。

4 おわりに

 今回の法改正には、本人の意思、意向を優先し、「地域みんなで本人を支えていこう」、つまり地域共生社会を目指そうというメッセージが込められています。
 「終わることができる」こととなる成年後見制度ですが、制度が終わったとしても本人は、何らかの支援が必要な人であることに変わりはありません。社会と地域に支援の仕組みが整わなければ終わることができないのです。

   

 障がいの有無にかかわらず、地域で自分らしく暮らしていくためには何が必要なのか、地域共生社会とはどういう社会なのか、私たち一人一人が支え合うとはどういうことなのか、あらためて皆で考えていくことが大切です。



親権、養育費の新しい制度について

 親権、養育費の新しい制度について

 令和6年5月に、父母が離婚した後もこどもの利益を確保することを目的として、民法が改正され、こどもを養育する親の責務の明確化とともに、親権、養育費、面会交流などに関するルールの見直しを行われました。

 そして、令和8年4月1日より、改正法が施行されることが決まり、離婚後の共同親権や、養育費の未払いに対応するため、法定養育費の制度や養育費請求権の先取特権が付与されることになりました。

2 共同親権について

 今までは、離婚するときに、父か母のいずれかを親権者に定めてしていましたが(単独親権)、令和8年4月1日からは、単独親権か、あるいは、親権者を父母双方と定める(共同親権)こともできるようになります。

 共同親権となった場合でも、食事や服装の決定、短期間の観光目的での旅行、心身に重大な影響を与えない医療行為の決定、通常のワクチンの接種、習い事、高校生の放課後のアルバイトの許可などの日常の行為については、単独で親権の行使が可能ですが、こどもの転居、進路に影響する進学先の決定、心身に重大な影響を与える医療行為の決定、預金口座の開設などは、父母が協議して共同して決めなければならないということになります。

 ただし、父母の協議や家庭裁判所の手続を経ていては親権の行使が間に合わず、こどもの利益を害するおそれがある場合は、父母の一方が単独で親権を行うことができるとされています。例えば、DVや虐待からの避難をする必要がある場合、こどもに緊急の医療行為を受けさせる必要がある場合、入学試験の結果発表後に入学手続の期限が迫っているような場合がそれにあたります。

 父母が共同して親権を行うべき特定の事項について、父母間で意見の対立がある場合は家庭裁判所に、親権行使者を指定するよう求めることができます。

 しかし、親権行使者の指定の手続については、どの程度の頻度で裁判所の期日が開かれることになるのか分かりませんが、従前の家事調停では1か月~1か月半に1回程度の頻度で調停期日が開催されていたということを考えると、家庭裁判所に、丁寧かつスピーディな判断を求めることは難しいように思います。

3 法定養育費について

 これまでは、父母の協議や家庭裁判所の手続により養育費の額を取り決めなければ、養育費を請求することができませんでしたが、今回の改正により、養育費の取決めをしていなくても、子1人つき2万円の法定養育費を請求することができるようになります。これは、あくまでも養育費の取決めをするまでの暫定的・補充的なものですので、父母が養育費の取決めをすれば、法定養育費は終了します。

 また、法定養育費の規定は、改正法施行後に離婚したケースのみに適用されるため、改正法施行前に離婚した場合は、法定養育費は発生しません。

4 養育費請求権の先取特権について

 これまでは、養育費の支払を取決めしていたとしても、別居親が養育費の支払を怠ったときに別居親の財産を差し押さえるためには、公正証書や調停調書、審判などの「債務名義」が必要でした。

 今回の改正により、養育費債権に先取特権という優先権が付与されるため、債務名義がなくても、子1人につき8万円までは、養育費の取決めの際に父母間で作成した文書に基づいて、差押えの手続を申し立てることができるようになります。

 注意していただきたいのは、先取特権に基づいて財産の差し押さえをするためには、公正証書、調停調書は必要ありませんが、合意書など父母間で作成した養育費に関する取決めの文書は必要であるということです。

 また、子1人つき8万円を超える養育費の取決めを行う場合には、公正証書等の債務名義を取得しておかなければ、別居親が養育費の支払いを行った時に財産の差し押さえを行うことができないということです。

5 以上のとおり離婚後の子の養育に関する新しい制度ができました。

 これから離婚を考えている方は、新しい制度も踏まえた離婚協議や調停手続等を行うことをお勧めします。分からないこと、不安なことがありましたら、どうぞご相談ください。




遺言のデジタル化が進んでいます

 遺言のデジタル化が進んでいます。
 超高齢社会の日本において、遺言に興味を持つ方も増えています。
 今回の法律通信は「遺言のデジタル化」についてです。
 世の中全般、デジタル技術の活用が進んでいます。距離の離れた人とでも、オンラインで顔を見ながら話すことも簡単になりました。買い物でもネットショッピング、キャッシュレス決済が進んでいます。

 遺言についても、デジタル方式が検討され、実現されようとしています。

 遺言は、その人の最終意思を込め、その人の死後に意向を伝える大事な文書です。そこから、その人の真意を誤りなく伝え、勝手に書き換えられたりしないようにする必要があります。また、残された人の権利に大きな影響を与えるところから、慎重に熟慮を促す必要があるとも考えられています。そうした配慮から、民法では遺言の作成にあたって厳格な方式が定められています。
 遺言にデジタル技術をどのように活用していくのか、公正証書遺言と自筆証書遺言について見てみましょう。

1 公正証書遺言のデジタル化

(1)公正証書遺言の作成

 公正証書遺言は、公証役場で公証人に、公正証書を作成してもらう遺言です。
 公証人が遺言者の遺言能力を確認し、さらに遺言内容についても遺言者の意向を確認して作成します。これにより、遺言が無効となるリスクが大幅に減りますし、遺言が廃棄されたり、隠されてしまったりするリスクもなくなります。
 実際に後日、相続人等が遺言の無効を争うことも少なく、信用性が高い方式です。
 作成に際しては、現在は、公証人の面前で、遺言者から直接、遺言の内容を伝える必要があります。そのため、公正証書遺言を作成する場合には、公証役場に出向くか、公証人に出張してもらい、公証人と直接対面することが必要です。また、公正証書は書面(つまり紙)で作成され、原本はそのまま公証役場に保存されることとなっています。

(2)デジタル化の内容

 公正証書のデジタル化は、実はすでに法律改正はなされていて、本年(2025年)10月1日に、施行されることが決まりました。遺言だけでなく、公正証書すべてにおいて、オンラインによる作成ができるようになります。
 施行されると、オンラインで必要書類を提出し、ウエブ会議システムを通じて公証人とやり取りをし、署名・押印に代えて電子署名をして作成します。つまり、完全オンラインで公正証書遺言を作成することができるようになるのです。
 遺言について、証人2名が必要であること、遺言者が公証人に遺言内容を口頭で伝える(口授)ことなどはそのままです。それらをオンライン、ウエブ会議の方式でできるようになります。

 ただ、オンラインによる作成については、遺言者が希望した場合であることと、公証人が「相当と認めるとき」という要件があります。
 公証人として、希望があった全ての場合にオンライン作成を認めるということではありません。特に遺言の場合は、遺言者の真の意向・希望を確認する必要があります。遺言者以外の人の意向に影響されてしまい、遺言内容が曲げられてしまうことなどは防ぐ必要があります。遺言者自身にとっても、よく検討の上、熟慮して作成されるものであることも大事です。
 こうした要請から、遺言者の心身の状況などで、公職役場に出向くのが難しいなど必要性が高い場合、それとともに、遺言の利害関係者の関与を防げる場所が確保されているかなどの事情を含めて、相当性を公証人が慎重に判断することとされています。その上で公証人が相当と認めた場合に、オンラインによる作成が可能となります。
 なお、オンライン手続きで作成されていない公正証書遺言についても、原本は、原則として電子データで作成・保存されることとなります。但し、書面(紙)による証明書を希望すれば紙で提供されます。

2 自筆証書遺言のデジタル化

(1)検討されている内容

 自筆証書遺言は、その名のとおり、遺言者自身が自筆で書く遺言書です。以前は全文を、自筆で書くことが必要とされていましたが、2019年(平成31年)1月13日からは、財産の目録については自筆で書かなくてもいいことになっています(但し、目録に頁ごとに署名捺印が必要)。

 自分で思いを書いて作成できる自筆証書遺言は、作成に費用もかからず利用しやすいというメリットがあります。しかし、原則として全文を自書するという方法が時代に合わない、また自書に負担を感じる人も多いとして、デジタル化の検討が始まっています。
 こちらは、まだ検討段階ですが、例えば、証人2名の立ち合いの下、パソコンで遺言の全文と日付、証人の名前などを記載した文書を作成し、その経過を録音・録画して、遺言者が自分が作成した遺言であることを口述する、遺言には遺言者と証人が電子署名をする、などの方式が検討されています。この場合、現在の自筆証書遺言と同様、遺言者の死後、家庭裁判所による検認という手続きが必要とされる予定です。

 または、自身でパソコン等で作成した遺言を公的機関で保管するという方式も検討されています。現在、法務局で自筆証書遺言を保管する制度がありますが、自筆の遺言ではなく、パソコンなどで作成した遺言の電磁的記録を公的機関が預かる制度を検討中です。預ける手続きもオンラインで可能とすることが検討されています。

(2)注意点

 デジタル化は、便利な反面、本当に遺言者の真意で作成されているのか、他者が不当な影響力を行使したり、改変してしまうことがないのか、などを検討することが必要です。
 遺言の保管制度は、紛失や他者による改変を防止するものとして有用ですが、具体的な制度の在り方について、様々な議論が進んでいます。全体として、デジタル化は時代の趨勢でもあり、その方向で進んでいくものと思われます。
 全文を自分で書く自筆証書遺言もなくなることはありませんが、押印をどうするか、などが議論されています。
 今後も改正の方向性に注目しましょう。

終活

~これからの人生を安心して過ごすために

1 終活って何をするの?

 終活が流行っています。人生の終わりを見据えて、今できる対策を考えようということです。一昔前までは、老後は子や親族がいることから考える必要がないものでした。
 しかし、現在は、無縁社会と言われ、また超高齢社会が進行しています。近くに頼れる親族がいない、あるいは親族には頼りたくないと言う人が年々増えています。
 他方、医療や福祉の現場では、その人本人の意思・意向・希望を大事にしようという方向が言われています。
 そこから、自分の老後を自身で思い描き、そのための準備をし、自分らしい人生を歩む準備をするのが終活だと言えます。

2 終活の手順

 終活は、自分の人生を準備するものです。まずは、自分自身が、どんな人生を送っていきたいかを考えることが大事です。
 このためには、エンディングノートと言われるものがいろいろと出回っています。自治体で配っているところもあるようです。これを活用して、記入をしながらいろいろと思いをめぐらすのもいい方法だと思います。
 また、一度、決めてもそれに固執しないことも大事です。自分も社会も、常に変化しています。今の状況に合わせて、また社会や周囲の状況にも合わせて、計画を変更していく柔軟性も大事です。
 そのためには情報収集も必要です。弁護士や各市区の社会福祉協議会、介護保険サービスを利用していればケアマネさんなどに相談してみると新しい情報が得られることもあります。

3 よく挙げられる課題

 高齢になると直面する悩みは、以下のものがよく聞かれます。
⑴ 足腰が弱って、買物や銀行からお金を下ろしてくるのが大変。
 高齢になると足腰が弱るのは誰にでも起こることです。自宅内に手すりをつけたり、外出する時の支援などは介護保険のサービスを利用することができます。 
 しかし、買物代行や銀行からのお金を下ろしてくるなど、お金を扱うことには利用できないのが一般的です。この場合、社会福祉協議会が行っている地域福祉権利擁護事業(全国的には日常生活自立支援事業)で預貯金の管理や払戻の援助などをしています。判断能力に課題があることが要件であり、事業のキャパシティーもありますが、利用できないか相談してみましょう。
 昨今は、スーパーやコンビニの配達サービスも充実していますので、そちらの利用も検討してみましょう。

⑵ 認知症になって自分の財産の管理ができなくなるかもしれない。
 日本の現在の高齢化率(65歳以上が全人口に占める割合)は29.3%、世界トップの超高齢社会です。今後もその高齢化率は増加し続けます。また、一人暮らしの高齢者も増加しています。
⑶ 入院や施設への入所の際に、身元保証人・身元引受人が求められる。
  病院の入院の際には、身元保証人がいないからと言って入院を断ってはいけない、との通知が出ていますので、治療の必要があるのに入院できないということはありません。
 有料老人ホームなどの施設入所に際しては、身元保証人・引受人が必要とされるのが一般的です。
⑷ 自分の葬儀や納骨は誰が行ってくれるのか、心配。
 死後事務と言われているものです。

4 備え

 このような課題に備える制度として、任意後見契約、財産管理契約、死後事務委任契約、遺言などがあります。

⑴ 任意後見制度、財産管理契約
 認知症などの判断能力の低下に備え、自分が信頼できる人(仮に「Aさん」とします)を予め自分の後見人として指定しておくのが任意後見契約です。判断能力が低下した後に家庭裁判所が任意後見監督人を選任し、その監督の下でAさんが任意後見人として仕事を始めます。任意後見監督人や家庭裁判所という公的な監督があるという安心感がある制度です。
 判断能力低下の前にもAさんの支援が受けられるように財産管理契約も同時に締結することが多いです。
 任意後見契約と財産管理契約を締結していると、Aさんを施設入所の際の身元引受人として、施設入所が可能となる場合がほとんどです。但し、Aさんは親族ではないため、債務の保証はできません。
 Aさんとの財産管理契約の内容にもよりますが、日常的な金銭管理や買物等につき支援を受けることも可能です。どのような支援が必要か、可能か、Aさんとよく相談しましょう。
(2) 死後事務委任契約
 自身の葬儀や納骨(死後事務と言われています)について不安がある場合、死後事務を任せる内容の死後事務委任契約を締結する人も増えています。
 前記の任意後見契約と財産管理契約を締結している信頼できるAさんと死後事務委任契約も締結し、葬儀や納骨を依頼するという場合も多いです。
 葬儀についての希望も、きちんと伝えておきましょう。死亡の際に連絡してほしい人は名簿にして渡しておきましょう。葬儀のやり方や納骨の場所などについてもきちんと伝えておけば希望通りになります。
 葬儀等にかかる費用については、大まかな金額を預けておくことも必要となります。
(3) 遺言
 遺言によって自分の財産の死後の行方を決めておくことが出来ます。法定相続人がいない場合、遺言が無ければ遺産は国庫に納められます。お世話になった人や団体に寄付したいなどの希望があれば、遺言を書いておくことで実現できます。
 また、遺言執行者を決めておくとその人が遺言を責任もって実現してくれます。前記のAさんを遺言執行者とし、生前からの財産管理、死後事務を依頼し、最後に遺言執行者として遺産を希望通りに寄付等してもらう、ということも出来ます。
 自身の希望をよく伝えておいて、老後から死後まで、サポートする体制を作っておくと安心です。

5 高齢者等終身サポート事業

 高齢者の悩みに対応して、身元保証や死後事務、日常生活支援等のサービスを行うのは、弁護士等の専門職も行っていますが、それ以外の事業者も増えてきています。
 これらの事業者の中には、料金体系が明確ではなく、高額な前払い金や預け金を要求したり、業者への寄付や遺贈が必須となっているなどの問題がある場合があります。国民生活センターにも苦情や相談が寄せられています。
 このため、これらの事業を「高齢者等終身サポート事業」として、国が2024年6月11日にガイドラインを発表しています。ただ、ガイドラインですので、違反しても罰則はなく、特定の監督官庁もありません。優良な事業者を認定するような制度もありません。今後、国による更なる施策が期待されます。

6 終わりに  

 超高齢社会、かつ、誰でも認知症になり得る社会で、誰もが安心して自分の人生を全うできるよう、制度をよく知って、上手に利用しましょう。

旧優生保護法

1 旧優生保護法についての最高裁判所の判決

 先日(7月3日)、最高裁判所で、旧優生保護法のもとで不妊手術を強制された人たちが国を訴えた裁判で、国に賠償責任があるとする判断が確定したとして大きく報道されました。 
 この判決は、障害を持つ人に対して不妊手術を強制した旧優生保護法を違憲であると明確に判断した点で画期的な判決です。
 法律的には、最高裁判所での争点は、たった一つ、被害者の損害賠償請求権が、民法に定められていた期間(20年)を経過したことにより消滅しているかどうか、だけでした。旧優生保護法で、不妊手術を強制することが憲法13条(個人の尊重、幸福追求権)、14条1項(法の下の平等)などに違反し、その違反により被った損害賠償請求権を行使できるかどうか、が争点でした。
 国側は、「民法では、不法行為から20年を経過した場合には、請求権は消滅すると定めている」と主張しました。これは、20年という期間を「除斥期間」と捉え、その例外は一切認めない、という考えです。最高裁判所は、これまでそのように解釈してきていました。しかし、最高裁判所は、不妊手術の強制は憲法違反であるとし、除斥期間についても、「著しく正義・公平の理念に反する特段の事情がある場合」には、期間が経過しても権利は消滅しない、との初判断を示し、これまでの判例を変更したのです。

2 「除斥期間」とは?

 不法行為に基づく損害賠償請求権の時効について、本件で適用される民法の規定は、「損害および加害者を知った時から3年」と「不法行為の時から20年」という二つの規定がありました。本件では、不妊手術は、数十年前に行われたものであり、20年以上の期間が経過しています。最高裁判所はこの「不法行為の時から20年」という規定は「除斥期間」であり、20年を経過すると、一律に請求権は消滅してしまい例外は認められない、と解釈してきました。
 しかし、本件が、国による著しく正義・公平の理念に反する人権侵害であることから、そうした場合には、除斥期間の主張は、信義則違反又は権利濫用であると判例を変更して、国の上告を棄却しました。
 学者の間では、以前から、そもそも除斥期間ではなく時効の問題と解釈すべきと主張されていました。20年経過したら、一律に請求権が消滅するというのではなく、時効期間と考えるというものです。

3 現在の民法(2020年令和2年4月1日から施行)と除斥期間

 現在では、20年というのは除斥期間ではなく、時効期間であると明確に規定されました(現行民法724条)。
 除斥期間ではなく、時効期間であるとどこが違うかというと、一番の違いは除斥期間というのは、20年が経ってしまうと、請求権は自動的に消滅してしまう、ということです。
 時効であれば、完成猶予と更新という制度があります。例えば、裁判を提起して請求すると時効の完成が猶予され、裁判が終了すると、時効が更新されます。
 時効の完成猶予となるのは、裁判上の請求(訴えの提起)、強制執行・競売、仮差押え、裁判外の請求(催告)、協議を行う旨の合意、天災です。
 このうち、時効が更新されるのは、裁判上の請求(訴えの提起)、強制執行・競売だけです。それ以外の、例えば、裁判外の請求(催告 内容証明郵便による請求が典型例です)は、その後6ヵ月は時効の完成を妨げますが、その間に訴訟提起をしないと時効は更新されず、時効が完成してしまいます。

4 時効というのは、長期間続いた事実関係をそのまま認めようとする制度です。

 消滅時効については、「権利の上に眠る者」(権利があるのに長期間行使しない人)は保護しない、また、長期間が経過してしまうと証拠が散逸し、真実を発見することが困難になること、などがその趣旨とされています。
 一般的には、早期に検討し、解決に向けて行動するほうが解決可能性は高くなります。

 今回の旧優生保護法の人権侵害は、当事者に不妊手術であることを知らせないままに手術を受けさせた事例もあり、さらに障害者に対する根強い差別もあり、当事者が声を上げることが不可能であったとの事情を正面から受け止め、「著しく正義・公平の理念に反する特段の事情がある」として、国の上告を排斥しました。
 今後、国は、訴訟提起していない被害者も含め、全面救済をすることが求められています。今後の動向にも注目しましょう。

相続登記の申請義務化について

 不動産登記簿には、所有者の氏名や住所が記載されていますが、土地の相続などの際に所有者について登記が行われないなどの理由で所有者が直ちに判明しない土地や、所有者が判明しても所在不明で連絡がつかない土地が大きな問題となっています。

 所有者が不明の土地の面積は、国土の22%に上るそうで(九州よりも広い!)、公共事業を妨げたり、管理が不十分なため、近隣に悪影響を及ぼすなどの問題が発生しています。 
 所有者不明土地の発生予防のために、民事基本法制の見直しがなされましたが、今回は、その中でも、多くの方に影響がある相続登記の申請義務化についてご紹介します。

1 令和6年4月1日から、相続登記の申請が義務化されます!

 相続によって不動産を取得した場合、現在は、不動産の相続登記の申請は義務ではありません。令和6年4月1日からは、相続登記の申請が義務化されることとなります。
 相続が発生した時に、遺言がある場合や、ない場合、相続人が複数いる場合や一人しかいない場合などで、遺産分割の話し合いが必要なのかどうかが変わります。

 遺言があれば、遺言により不動産を取得した相続人が、相続登記の申請を行うことになります。遺言がない場合でも、相続人が一人しかいない場合は、不動産を単独で取得した相続人が相続登記を行うこととなります。そして、相続によって不動産を取得した相続人は、その所有権の取得を知った日から3年以内に相続登記の申請を行わなければなりません。

2 遺言がない場合で、相続人が複数いる場合はどうなる?

 相続人全員で、遺産分割の話し合いを行うこととなりますが、遺産分割が3年以内に成立するかどうかによって、登記申請の内容が変わってきます。
 3年以内に遺産分割が成立する場合は、3年以内に遺産分割の内容を踏まえた相続登記の申請が可能であれば、相続登記申請を行えばよいことになります。
 これが難しい場合は、下記の遺産分割に時間を要するケースと同様の登記申請を行う必要があります。

3 遺産分割の話し合いに時間がかかりそう。相続登記の義務は免除される?

 早期に遺産分割をすることが困難な場合は、「相続人申告登記」を、不動産の相続を知った日から3年以内に行う必要があります。
 「相続人申告登記」とは、登記簿上の所有者について相続が開始したことと自らがその相続人であることを申し出る制度です。
 この申出がされると、申出をした相続人の氏名・住所等が登記されますが、持分までは登記されません。また、登録免許税はかかりません。
 相続人が複数存在する場合でも特定の相続人が単独で申出することが可能で、登記簿に氏名・住所が記録された相続人のみ、相続登記申請義務を履行したこととなる点に注意が必要です。
 遺産分割が成立したら、遺産分割成立日から3年以内に、遺産分割の内容を踏まえた相続登記の申請を行う必要があります。もし、遺産分割が成立しなければ、それ以上の登記申請は義務付けられません。

4 登記義務に違反すると、どうなる?

 正当な理由なく義務に違反した場合は10万円以下の過料(行政上のペナルティ)の適用対象となります。
 正当な理由の例として、相続人が極めて多数に上り、戸籍謄本等の資料収集や他の相続人の把握に多くの時間を要するケース、遺言の有効性や遺産の範囲等が争われているケース、申請義務を負う相続人自身に重病等の事情があるケースなどが想定されています。

5 過去の相続にも適用される?
 令和6年4月1日より以前に相続が開始している場合についても適用されます。
 令和6年4月1日か、相続によって不動産の取得を知った日のいずれか遅い日から3年以内に相続登記を行う必要がありますので、ご注意ください。

6 相続のことについてわからないことは、どうぞご相談ください。

 令和6年4月1日より、相続登記が義務化されますので、遺産分割を行わず放っておくと、過料が科される場合がありますので、早めに遺産分割の話し合いを開始することをお勧めします。


 もし、相続する意思がない場合は、そのままにしておかず、家庭裁判所にて、相続放棄の手続が必要となります(相続開始を知った時から3か月以内の期間制限にご注意ください)。
 遺産分割の話し合いや相続手続には法的な知識が必要なことも多いので、わからないことがありましたら、どうぞご相談ください。

成年後見制度

 今回は、成年後見制度についてです。
 後見人という言葉を聞いたことがあると思います。
 超高齢社会と言われる日本において、介護保険が始まったと同時に2000年4月から、今の成年後見制度が始まっています。その概要を紹介します。
 さらに、今、この制度をより良いものにし、社会全体も、誰もが生活しやすいものにしていこうと改正の論議がなされています。

1 成年後見制度を知っていますか?
 2000年から、認知症、知的障害、精神障害などの判断能力に困難を抱える人に支援者を選任する制度として、成年後見制度が始まっています。
 本人の判断能力の困難性の程度に応じて、後見(判断能力を欠いている)、保佐(判断能力が著しく不十分)、補助(判断能力が不十分)の3類型に分かれていて、それぞれ成年後見人、保佐人、補助人が選任されます。

2 一番利用の多い後見類型について説明します

 4親等内の親族や、本人の住所地の首長が家庭裁判所に後見開始の審判を申立てると、成年後見人が選任されます。成年後見人は本人の法定代理人であり、本人に代わって財産管理を行います。通帳やカードは、成年後見人が保管し、本人のために使用していくのが一般的です。

 また、本人に必要な福祉サービス(介護保険サービスや障害福祉サービス)についても検討したり、契約したりします。特別養護老人ホームなどの施設入所が必要であれば、申込や入所契約を行い、その後の費用支払いも行っていきます。

3 後見人には誰がなるの?

 後見人になるために、特別な資格は、法律上は要求されていませんが、現状では、専門職(弁護士、司法書士、社会福祉士など)が8割程度となっています。
 これに対しては、「同居の子になってほしいと思っていたのに、全然知らない専門職が選任された」など、後見人の人選に不満や批判が言われることがあります。
 後見人に誰が選任されるかは、最終的には担当裁判官が決めることとなっていて、その人選には異議申し立てできません。
 申立てる際に、候補者を挙げることはできます。そのケースが、親族間で意見の違いがない場合や専門性が必要な課題(遺産分割などの法的課題や財産が高額など)が無ければ、候補者がそのまま選任される場合がほとんどです。また、財産が高額、という場合には、候補者を後見人とした上で、専門職の後見監督人が選任されることも多くあります。

 また、当初は、専門職が後見人に選任されたものの、専門性が必要な課題が解決した場合には、親族後見人や地域で養成されている市民後見人に後見人を変わる(リレー方式と言われています)ことも行われています。

4 後見制度改正の動き

 このような後見制度ですが、現在、法改正が議論されていて、数年後には変わっていくようです。
 一番の課題は、現在の制度は、一度後見人が選任されると、原則として一生続いていく、というところにあります。
 例えば、本人の父親が亡くなり、遺産分割の必要性があって申立てられた場合、遺産分割という法的課題があることから弁護士後見人が選任されたとします。遺産分割が終了すれば、あとには特別の法的課題がない、という場合があります。元の平穏な日常生活に戻ったけれども、後見制度は、本人の判断能力が回復しないと取り消せない、ということになっているため、亡くなるまで後見人が財産を管理し続けることとなります。
 しかし、後見人に遺産分割協議だけを行えば、財産管理は本人が行えている、あるいは家族の中で管理できている、というような場合もままあります。  

 現行の制度は、実際のケースの具体的内容に合わせるのではなく、一律に権限が定められているため、実情と合わない場合があるのです。
 さらに、2014年に我が国も批准し、法的拘束力がある障害者権利条約では、日本の成年後見制度のような法定代理人による代理・代行決定の制度は、障害を理由とする差別であるので、廃止すべきとされています。

 基本的人権である自己決定権を尊重し、他者である成年後見人が決定(代理・代行決定)するのではなく、本人自身の意思決定を支援していく仕組みに転換していくことが強く求められています。
 現行の成年後見制度を、必要な時に必要な範囲と期間に利用し、他者決定ではなく、本人の意思決定を支援する制度とするため、白熱した議論がなされています。
 これについては、現在、弁護士をはじめとした専門職、当事者団体、学者、最高裁判所、法務省、厚生労働省から委員が出て、研究会が設けられ、議論されています。(公益社団法人商事法務研究会に「成年後見制度の在り方に関する研究会」)

 障害を持つ人たちを含め、誰もが自分のことは自分で決めていく、そのために必要な情報取得等の支援を受けられる、そんな社会が出来ていけば、誰にとっても暮らしやすい社会になると思います。私たちの社会の在り方にも影響がある制度改正に、ご注目ください。



相続土地国庫帰属制度

 実家の土地を相続したが、遠くに住んでいて利用する予定がないし、管理も大変だ、と悩まれたことはありませんか?
 令和5年4月に、相続した土地を国が引き取る制度(相続土地国庫帰属制度)がスタートします!
 今回は、相続土地国庫帰属制度についてご紹介します。

1 申請ができるのはだれ?

〇相続又は遺贈(以下、「相続等」と言います)により土地の所有権を取得することが必要です。
 したがって、売買により土地を取得された方は、この制度を利用することはできません。

〇共有者も申請ができます
 相続等により、土地の共有持分を取得した共有者は、共有者の全員が共同して申請を行うことによって、本制度を活用することができます。

 また、売買によって共有持分を取得した共有者がいる場合でも、相続等により共有持分を取得した共有者がいるときは、共有者の全員が共同して申請を行うことによって、本制度を活用することができます。
 本制度開始前に相続等した土地も本制度の対象となりますので、数十年前に相続した土地についても、本制度の対象となります。

2 どのような土地であれば引き取ってもらえる?

 どのような土地でも国が引き取ってくれるわけではありません。下記のような通常の管理や維持に必要以上の費用や労力がかかる土地は、管理が大変であるため、引き取ってもらえません。

 ××このような土地は制度の対象となりません××

  1. 建物がある土地
  2. 担保権や使用収益権が設定されている土地
  3. 通路など他人によって使用されている土地
  4. 土壌汚染されている土地
  5. 境界があきらかでない土地、所有権の存否や範囲に争いのある土地
  6. 崖のある土地など、通常の管理にあたり過分の費用又は労力を要する土地
  7. 工作物や樹木、車両などが地上にある土地
  8. 除去が必要なものが地下にある土地
  9. 隣接する土地の所有者などと争訟をしなければ使えない土地
  10. その他、通常の管理や処分をするにあたり過分の費用又は労力がかかる土地

3 国に納付する費用はいくら?

 土地所有権の国庫への帰属の承認を受けた場合、10年分の標準的な管理相当額を負担金として納付する必要があります。どのような管理行為(巡回のみで足りるか?柵設置、看板設置、草刈などが必要か?)が必要となる土地かによって負担金は変わります。
 宅地の場合、巡回のみで足りる土地は面積に関わらず20万円ですが、草刈などの管理を要すると考えられる一部の市街地等(都市計画法の市街化区域又は用途地域が指定されている地域)の土地については、土地の面積に応じて負担金の額を算定することになり、例えば100㎡で約55万円、200㎡で約80万円となります。面積が大きくなるにつれて1㎡当たりの負担金額は低くなるため、単純比例ではないことに注意が必要です。

田、畑も、巡回のみで足りる土地は面積に関わらず20万円ですが、一部の市街地、農用地区域等の田、畑については面積に応じて算定することになり、500㎡で約72万円となります。
 森林は面積に応じて算定され、1500㎡で約27万円、3000㎡で約30万円となります。

4 手続の流れ

 法務局で、申請書と必要な添付書類を提出し、審査手数料を納付します(審査手数料の金額はまだ決まっていません)。その後、法務大臣(法務局)による要件の審査・承認手続が行われ、国庫への帰属の承認を受けた場合、負担金を納付することにより、土地が国庫に帰属することとなります。

5 おわりに

 相続土地国庫帰属制度を利用できれば、要らない土地を手放すために買い手を探す必要もなく、国に引き取ってもらうことができます。他方で、上記で見たとおり、この制度を利用するためには様々な条件を満たす必要があります。建物が建っている土地は更地にするために建物の取り壊し費用がかかったり、また、土地の境界が不明確な場合は、申請前に境界を確定するための測量が必要になりますので、別途それらの費用がかかることに注意が必要です。
 要らない土地を相続で取得してしまい、制度を利用したいという方は、お気軽にご相談ください。

死後事務って何?

 超高齢社会と言われる今、一人暮らしの高齢者も多く、自身の死後のことを案じる相談も多くなっています。
 「死後事務」「死後事務委任契約」という言葉を知っていますか?

1 死後事務

 高齢になってくると、どうしても自分の死後について思いを馳せることが多くなってきます。特に、一人暮らしで、近くに頼れる人がいないという高齢者にとっては、万が一の時の不安は深刻です。
 そんなときの備えの一つが「死後事務委任契約」です。

2 死後事務委任契約の検討

 最初に、自身の希望をよく考えてみましょう。先祖代々のお墓があって、そこに自分も入りたい人もいれば、ほかにお墓を求めたい人もいます。最近は、海などへの散骨を希望する人もいます。

 葬儀についても、親しい人を呼んで葬式をしてほしい人もいれば、葬儀は不要で、納骨まで終わってから、親戚や知人に知らせてほしいという希望の人もいます。自分の希望をあらためて検討してみましょう。

 法定相続人との関係も重要です。死亡すると自動的に相続が開始し、あなたの財産は相続人のものになるのです。死後事務委任契約を締結しておくと、ほとんどの場合、相続人も拘束しますが、できれば、相続人も納得して協力してくれたほうがトラブルになりません。

3 死後事務委任契約の具体的内容

①葬送に関する事務
 葬儀の実行、納骨や埋葬、また、その後の供養などが考えられます。葬儀を行う方法、埋葬の方法などを決めておきます。
 また、お墓はあるもののお墓の承継者がいないために墓じまいを希望する人もいます。墓じまいについては、それぞれの墓地によって、行い方が異なってきますので、具体的に検討する必要があります。永代供養を行ってもらって、お墓の使用権はお寺に返還する、というやり方が多く見受けられます。その費用も、決まりがあるところもあれば、住職との話し合いで決まるところもあり、様々です。

②死亡届
 葬儀を行う前提としても、自治体に死亡届を提出することが必要です。しかし、死亡届は、誰でもできるわけではなく、届出人が法律で決められています。親族や同居人であれば、届出人になれますが、死後事務を依頼されただけの人は、死亡届を出すことができません。他の親族や同居人、または家主や地主さんなど、届出人がいるかどうかも考える必要があります。
 死亡届を届出る親族や同居人がいないようであれば、任意後見契約を締結しておくことも考えられます。任意後見契約とは、自身の判断能力に困難が生じた場合に備えて、将来の自分の後見人を決めておく制度です。今後、もしも認知症などで、自身の判断能力に困難が生じても、自分が決めた任意後見人が代理人として活動し、あなたの人生を支えてくれます。また、任意後見人になる予定の人(任意後見受任者と言います)も、死亡届を出すことができます。

③その他の事務
 一人の人が亡くなった後の手続きはその他にも諸々あります。現状では、病院で亡くなる方が多いので最後の入院費の支払い、年金の死亡届と未支給年金の清算、高額療養費など役所からの給付金の清算、遺留品の処分などです。

 かわいがっていたペット、SNSのアカウントやインターネットなどの個人情報の抹消処理や契約の解約なども、今後増えていくと思われます。ペットの引き取り手を探したり、SNSの解約方法を予め確認しておくなど、準備が大切です。

 こうした事務の中から、どれをどのようなやり方で依頼するのかを決めて、死後事務委任契約を締結しておくと安心です。

4費用について

 死後事務委任契約の費用は、受任者(死後事務を執行してくれる人)に支払う報酬と、死後事務自体に必要な費用が考えられます。

 例えば、葬儀や墓じまいを行う場合、その費用が必要です。費用の金額は、葬儀の内容などによって違ってきます。前もってよく調べておくことが大切です。
 受任者は、葬儀業者やお寺さんなどと協議をし、あなたの希望をかなえるべく活動します。その報酬をどうするかについては、受任者とよく話し合って決めておきます。
 それらの費用、報酬などについては、予め受任者に預けておくことが一般的です。

5 報告

 最後に、受任者が死後事務を執行した後、その結果を報告する人や、預り金についても残金があれば、それを渡す人についても、決めておくことが適切です。人生の最後の時も、自分で決めておくことで安心を得る、そんな契約にすることが一番大切です。



配偶者暴力防止法の改正について

 離婚の相談では,配偶者から暴力を受けているというご相談を受けることがあります。
 自宅を離れて住所を秘密にしているのに,探し出そうとしたり,電話やメールでしつこく連絡してくるのが怖い,やめてほしい,という場合,裁判所に対して,配偶者暴力等に関する保護命令の申立てを行い,接近禁止や電話等の禁止を行うことができます。

 配偶者暴力相談支援センターへの相談件数や,警察本部長等への援助申出受理件数や検挙件数は近年増加しているにも関わらず,裁判所の保護命令の申立件数も認容件数も減少が続いている状況です。これは,保護命令の申立ての範囲が,身体的暴力に限定されていることや,保護命令が出されても,6か月という短期間の接近禁止や電話等禁止の効果しか得られないなどから使いにくい制度となっていることが一因です。
 現在,内閣府男女共同参画局のワーキンググループ(WG)において,法律の改正案の検討がされており,来年の通常国会の提出を目指して素案が発表されましたので,内容を簡単にご紹介します。

1 保護命令の対象に,精神的暴力,性暴力を追加する

現行法では,身体に対する暴力に限定されています。保護命令には刑罰の罰則規定があるため,対象となる行為を明確にすることが必要だと考えられたためです。しかし,令和2年度の内閣府のDV相談窓口に寄せられた相談のうち,身体的暴力は約3割,精神的暴力が約6割であり,DVの実態に対応するため,保護命令の対象に含める方向で検討がされています。WGでは,繰り返される暴言や長時間の説教で寝かせない,大声で長時間怒鳴る,長時間叱責する,ひどい侮辱をするなどの行為について対象に取り込めないか議論されています。

2 SNSでのつきまとい等を禁止行為に追加する

 現行法では,電話や電子メールの送信は禁止行為に含まれるのですが,SNS等を利用したつきまとい等は対象に含まれていません。
 ストーカー規制法が改正され,SNSでのつきまといやGPS等を使用して位置情報を把握することやそれを告げること等が対象に含まれました。例えば,開設しているブログやホームページにコメントを書き込む,Facebookで執拗に友達申請をしてくるなどが規制対象となりました。保護命令の禁止行為にも,SNSでのつきまとい等を追加することが議論されています。

3 保護命令違反の罰則の加重について

 現行では1年以下の懲役又は100万円以下の罰金とされていますが,ストーカー規制法の罰則強化に合わせて,2年以下の懲役又は200万円以下の罰金とすることが検討されています。

4 接近禁止命令期間の拡大・延長について

 接近禁止命令の期間が現行では6か月とされていますが,離婚の訴えにおける平均審理期間が1年以上に及び離婚調停で成立した件数のうち45%が別居期間6か月以上です。また,生活の平穏を取り戻すまでには相当な期間の別居期間が必要であることや,ストーカー規制法では禁止命令の期間が1年とされていることなどから,保護命令の禁止期間も1年に拡大することが検討されています。

5 その他

 加害者プログラムへの取組を進めることや,現行法では2か月しか認められていない退去命令を,例外的に6か月出せることとするかなど議論されています。
 また,現行法では,婚姻関係がなくても,生活の本拠を共にする交際相手からの暴力については,保護命令の対象となっていますが,生活の本拠を共にしない交際相手からの暴力(デートDV)についても一律に対象とすることは難しいという議論がされています。
 これは,法が,配偶者暴力は密室の閉鎖的関係において行われる暴力であり,外部から被害が発見されにくく,被害が深刻化しやすい等の特殊性があるとして,一般の暴力とは別に特別の立法が必要であると考えられているからです。交際相手全てを一律に対象とすることは趣旨に合わないと考えられています。
 また,WGでは,現行法においても,在留資格のない外国人やLGBTQのカップルが生活の本拠を共にする場合についても保護命令の対象となるということが確認されています。LGBTQのカップルに関し,同性カップルにつき保護命令の申立てができるか否かについて,否定的な裁判官の論稿もありますが,WG内で確認された内容の周知が必要です。

最後に

配偶者が暴力行為を認めない場合,裁判所に,保護命令の発令をしてもらうためには,受傷状況のわかる診断書,写真や,暴力行為の動画,録音記録などの証拠が必要になります。病院に通院していない場合でも,怪我の状況を写真で撮影するなど記録を残しておくことが大切です。また,今後,保護命令の対象に精神的暴力が追加された場合でも,大声で怒鳴っている様子や人格を否定するようなLINE等のメッセージの記録などは必要となると思われます。証拠を消さずに,保存しておくことが重要になります。