「遺言書の書き方について」2016年冬号

 今回は、遺言書の書き方についてです。遺言書の種類には、①自筆証書遺言、②公正証書遺言、③秘密証書遺言があり、それぞれ、メリット デメリットがありますが、自筆証書遺言は紙とペンがあれば作成でき、簡単に作れます。今回は、自筆証書遺言の作り方のポイントを挙げたいと思います。

1 全て自書により作成し、押印すること

 自筆証書遺言は、「自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全部、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない」(民法958条1項)とされています。自筆証書遺言は、日付、氏名を含む全ての文章を自筆(自書)で記載する必要があります。文章の一部を、パソコンで作成するなどはできません。 また、押印も必要です。民法上は「印」の指定はないので、実印でなければならない、ということはありません。認印でも良いです。また、拇印についても、有効とされた判例があります。ただし、実印による押印であれば、遺言の有効性が争われた際に、本人が遺言書を作成したといいやすいの、できるだけ実印を使用した方がよいです。

2 その他形式、用紙、筆記用具について

 自筆証書遺言には、縦書きや横書き、字数・行数などの制限はなく、形式は自由です。また、用紙は、メモ帳や日記帳でもよく、筆記用具も、ボールペン、万年筆等の制限はありません。鉛筆でもよいです(ただし、鉛筆などは文字が消えてしまう可能性があるので、おすすめしません)。 このように、自筆証書遺言は、ペンと紙があれば、いつでも、どこでも作成できることから、簡単に作成できるというメリットがあります。
 もっとも、しっかりとした遺言書を作成したいという場合、内容についてはいくつか注意が必要です。

3 『誰に』相続させるかを明確にすること

 遺言を作成する際に、気を付けたいことは、遺産の特定です。相続人が複数いる場合、どのような財産をだれに遺すつもりであるのか、明確にしておく必要があります。
 例えば、「家族に遺産の半分を相続させたい」という記載した場合、具体的には、誰を指すのかが不明確ですので、氏名を特定した方がよいです。

4 『何を』相続させるかを明確にすること

 相続財産の特定もできるだけ具体的にしておいたほうがよいです。
 例えば、「不動産」「預貯金」を相続させる、という記載だと、どの不動産なのか、どの預貯金なのかが不明確となりますので、不動産なら、権利証や登記を確認しながら所在地、地番等を明記し、預貯金であれ ば少なくとも金融機関名、支店名を特定しておくと良いです。
 また、遺言を作成する本人には、遺産の内容は分かっていても、相続人らはどこにどのような財産があるのか不明なことが多いです。通帳が残っていたり、金融機関からの通知がある場合は良いですが、保険証券が残っておらずどのような保険に加入しているのかわからなかったり、インターネットバンキングなど通帳がそもそも存在しない口座や、郵便物も届かないというようなケースもあります。日本全国には、無数 の金融機関があるため、すべて調査することは不可能ですので、預貯金口座が把握できず、そのまま休眠口座になってしまうという可能性もあります。遺言書に具体的に記載して、あらかじめ特定しておけばそのようなリスクもなくなります。

5 葬儀費用について

 葬儀費用については、あらかじめ、遺言者本人が生前に葬儀に関する契約を締結していれば、契約内容に従って負担が決まります。遺言者本人が契約者で負担者となっていれば、相続財産から支出することになります。また、亡くなった後に相続人の間で葬儀費用の合意がある場合には、合意内容に基づき葬儀費用の負担が決まります。
 問題は、上記のいずれにもあたらない場合です。遺言者本人のために 行うものであるから、遺産(相続財産)の中から支出するのが当然だと 思われる方がいらっしゃるかもしれません。しかし、葬儀費用をだれがどのように負担するかは、民法などの法律では決まっておらず、①共同相続人が負担する、②喪主が負担する、③相続財産から支出する、とする考え方があります。葬儀費用の負担者を遺言で定めた場合の有効性については、明らかではありませんが、葬儀費用に関する紛争が生じることを避けるため、葬儀の方法、内容、葬儀費用の負担者、負担方法について、遺言で定めたうえ、日頃からご家族の間でも話し合っておかれることが大切です。

6 遺留分にも配慮すること

 「遺留分」とは、兄弟姉妹以外の法定相続人について、遺言の内容がどのようなものであっても最低限 保障される相続分のことをいいます。したがって、遺言の内容よりも遺留分が優先されます。
 全ての財産を一人に相続させる、という内容の遺言を見ることがありますが、他の法定相続人にも、一 定の相続分を主張する権利がありますので、遺言書通りに、相続できるとは限らないことに注意が必要です。遺言を作成する際には、「遺留分」にも一定配慮した内容にしておくと、後々の紛争を防止できます。

7 遺言書の保管

 遺言書を封筒に入れるかどうかは自由ですが、改ざんのリスクを避けるために、封筒に入れて封印しておいたほうが良いです。
 また、不備のない遺言書を作成したとしても、発見されなければ意味がありませんので、どなたか信用できる方に預けておいたり、貸金庫など安全な場所に保管しましょう。

8 自筆証書遺言検認手続

 遺言書の保管者又はこれを発見した相続人は、遺言者の死亡を知った後、遅滞なく遺言書を家庭裁判所に提出して、遺言書の「検認」を請求しなければなりません。
 検認とは、相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせるとともに、遺言書の形状、加除訂正の状態、日付、署名など検認の日現在における遺言書の内容を明確にして遺言書の偽造・変造を防止するための手続です。遺言の有効・無効を判断する手続ではありません。
 自筆証書遺言に基づいて、相続手続を行うためには、まずは、裁判所で検認手続を行わなければならず、手間がかかるというのは、自筆証書遺言のデメリットです。

9 終わりに

 自筆証書遺言は、作成自体には費用もかからず、簡単に作成できます。他方で、日付が抜けているなど形式不備により無効となるおそれや、内容が不明確で解釈に争いがあり、相続が発生した際に紛争に発展するおそれもあります。
 自分で遺言書を作成される場合でも、記載内容や、形式不備のチェックのため、法律の専門家にご相談されることをお勧めします。