「高齢社会と成年後見制度」2015年冬号

今回は、高齢社会と成年後見制度です。

1 超高齢社会

 「2025年問題」というのを聞いたことがありますか? 2025年は、今からちょうど10年先ですが、この年は団塊の世代が、75歳以上の後期高齢者になる年です。なんと、日本の人口の四人に一人が、75歳以上となる超高齢社会です。高齢者の人数が多くなることから、必要とされる医療や介護が十分に供給できるのか、質が保てるのか、また社会保障費が不足しないか、などが問題とされています。
 認知症の人も、増え続け、2012年に462万人と言われていますが、2025年には700万人とも言われています。 こうした高齢社会への対応として、平成12年から介護保険制度が開始されましたが、同時に、新しい成年後見制度がスタートしました。

2 福祉サービスと成年後見制度

 介護保険制度は、介護サービスを受けるに際して、サービス提供事業者と契約を締結する制度です。
 認知症などで、判断能力に困難を抱える人は、こうした契約を締結することがスムーズにできないため、成年後見人等を選任し、後見人が代わって契約を締結することが必要なのです。
 成年後見人は、本人の財産を管理して本人がその人らしく生活して行くことができるように、その財産を活用していきます。また、その人の生活に問題がないように必要な福祉サービスを受けられるようにします。
その前提として、成年後見人は、本人がどんな生活をしていて、どういう希望 があるのか、どんなことが好きなのか、逆にどんなことはしてほしくないのか、などをよく知る必要があるので、本人と会って話を聞いたり、本人の状況をよく知る家 族やケアマネジャーなどの福祉関係者から情報を得たりします。このように成年後見人は、本人の法定代理人として、本人をなによりも大事にします。家族の方といえども、必ずその意見を聞かなくてはいけないわけではありません。また、後見人の活動については、家族・親族にも報告する義務はないとされています。
 こうしたことから、家族・親族の方からは、「後見人が何も話してくれない。よからぬことをしているのではないか」という相談を受けることもありますが、本人の意思を忖度し、家庭裁判所の監督の下、誠実に後見事務を遂行するのが後見人なのです。

3 成年後見人が必要な場合

 例えば、親御さんが、最近判断能力に不安を感じるようになっていて、誰かに騙されないかが心配、あるいは、一人で銀行から払い戻しができなくなった、あるいは払い戻してきたお金や通帳を頻繁になくしている。
 一緒に出掛ける予定をして、日時も確認していたのに、次に電話をしたら、すっかり忘れている。以前は料理が好きでいろいろなものを作っていたのに、最近は料理中に他のことをし始めて、鍋を焦がしたりしている。
 こんなことがあったら、成年後見制度利用を検討してみる時といえます。一度ご相談を頂けたらと思います。

4 法定後見制度

 成年後見制度には法定後見と任意後見があります。
 法定後見制度は、判断能力が低下した人が、その低下の程度に応じて、後見、保佐、補助の3類型のどれかを利用する制度です。どの類型に該当するかは、成年後見用の診断書により判断することができます。
 類型によって、成年後見人・保佐人・補助人が、選任されますが、それぞ れの権限や、本人の同意の要否に違いがあります。 成年後見人は、本人の代わりに財産行為を全てすることができます。また、本人がした法律行為についても、日常生活に関する行為以外で、それが本人に不利益であれば、取り消すことができます。 本人のために、なんでもできる人、と言っていいでしょう。
 保佐人は、取り消すことが成年後見人と同じようにできます。本人に代わって、 財産行為(例えば銀行での預金の払い戻し)をするには本人の同意が必要となります。本人の同意があれば、本人の代理人となるのです。 補助人は、取り消す行為も、本人に代 わってなす行為も、全て本人の同意が必要です。
 このようにいろいろと使い勝手が違う制度ですので、どういう状況でどういう対応が必要なのか、よく検討すること が必要です。

5 任意後見制度

 今は、お元気で判断能力にも問題ないのだけど、将来のことが心配、という方は任意後見制度の利用がお勧めです。将来、認知症などで、判断能力が低下した時に、自分に代わって財産管理をし、介護サービス契約などをしてくれる人を今から頼んでおく制度です。自分の後見人を自分で選んでおけることで安心を準備できます。
 また、葬儀などの死後事務についても、一緒に 依頼し、遺言も作成しておけば、本当に安心です。自分の人生は、現在も未来も、自分のものです。どんな時も、自分らしく、希望をかなえられるよう、今から準備しておきましょう。