「自筆証書遺言の保管制度が始まっています」2020夏号

1 遺言とは

 昨今、遺言を作成する人が増えています。遺言では、自身が死亡した後の財産の行方を決めることができます。それにより、「相続は争族」などと言われる親族の争いを防ぐこともできます。
 自分の財産は、まずは、自分のために有効に使うことも大切ですし、自身の死後の財産の行方を決めておくことも、大切な事柄です。

2 公正証書遺言と自筆証書遺言

 遺言には、いろいろな方式がありますが、代表的なものは公正証書遺言自筆証書遺言です。

 公正証書遺言は、公証人に依頼して作成します。公証人が、希望する遺言の内容を聞き取って、公正証書を作成します。公正証書の原本は、公証役場に保管されるので、紛失の虞もありませんし、後で遺言が偽造されたりすることもありません。ただ、公証人との相談が必要であり、また、一定の費用もかかります。

 それに比し、自筆証書遺言は、自筆で書くことで作成するので、簡便です。ただ、全文を自筆で書くこと(目録は自筆でなくてもよくなりましたが、各ページに署名と捺印が必要です)、日付と署名、捺印が必要であることなど、方式が厳格に定められていて、それに沿わないと無効になってしまいます。また、死後には、家庭裁判所の検認という手続きが必要です。

 さらに、自分で書いて、しまっておくと、紛失することもあります。自分の死後には、誰からも発見されないというリスクもあります。

3 自筆証書遺言を法務局(遺言保管所)が保管

 2020年7月10日から、法務局で遺言書を保管するという制度が始まっています。
 自分で書いた遺言書を、法務局が保管する、という制度です。
 紛失や偽造の虞が無く、また、死後の家庭裁判所による検認手続きも不要です。

4 自筆証書遺言の作成

 まずは、どういう内容にするかは、自分で、よく考える必要があります。法務局は遺言の内容の相談にはのってくれません。

 相続人のうちの一人に多くあげたい、相続人ではないがお世話になった人に財産を分けたい、どこかに寄付をしたいというような場合には、遺言をしておかないと、そうなる保証はありません。また、相続人のうち、兄弟姉妹以外(配偶者や子など)は、遺留分があります。遺産の一定割合については、遺留分として保証されているのです。その遺留分を侵害する遺言である場合には、あとで争いになることもあります。
 せっかく遺言を作るのであれば、自分の希望通りで、かつ、争いの種にならないような遺言にしたいものです。
 ただし、法務省のホームページには添付の資料もあり、遺言書の例が載っています。こうしたものを参照しながら、作るのもいいでしょう。

 

5 予約して保管

 遺言を書いたら、法務局に予約して預けます。法務局は、遺言者の住所地、本籍地、または遺言者の所有する不動産の所在地の法務局から選べるとのことです。封筒などは不要で、書いた遺言をそのまま持参して預けます。保管料は1通3900円となっています。法務局からは遺言の保管証が発行されます。

 その後、自分で書いた遺言を閲覧することができ、また撤回(保管をやめること)も可能です。これらは、いずれも遺言者本人のみができます。遺言者の生前は、親族や後見人等は、遺言書を見たり、あるいは、遺言を預けているかどうかを照会することもできません。ただ、前記の保管証があれば、遺言が作成され、預けられていることは分かります。

6 遺言者の死後

 遺言者が亡くなると、遺言が効力を生じます。
 遺言者の法定相続人又は受遺者(遺言により財産をもらう人)は、法務局に対し、遺言書の内容を照会できます。遺言があれば、遺言書の内容を証明した文書(遺言書情報証明書)を取得できます。これにより、遺言書の内容が分かり、不動産の登記手続きや預貯金の相続手続きにそのまま使用できます。家庭裁判所の検認手続きは不要です。
 なお、保管された自筆証書遺言があったとしても、別途、保管されていない自筆証書遺言や公正証書遺言が作成されている可能性もあります。その場合、時期的に、最後に作成された遺言が優先します。保管されていない自筆証書遺言であっても、時期的に後に作成された遺言であれば、保管されていた遺言にも公正証書遺言にも優先します。その人の最後の意思を尊重しようとするのが遺言制度だからです。
 保管されているかいないか、公正証書か自筆証書か、あるいは法務局に保管されていたか、という作成方法の違いによる遺言の効力の優劣はありません。