2019年夏号「遺言制度・遺産分割の見直しについて」

2018年7月に改正された相続法について、2018年冬号では、配偶者の居住権を保護するための方策を中心に取り上げましたが、遺言制度に関する見直し、遺産分割に関する見直しなど重要な改正もありましたので、ご紹介したいと思います。

第1 遺言制度の見直し

1 2019年1月13日施行日前

自筆証書遺言を作成する場合、財産目録などを含めた遺言書の全文を自書する必要がありました。

2 現在

全文の自書は相当な負担があることから、改正により、財産目録については、自書による作成を要せず、パソコン等や他人による代書で作成することや、通帳・登記簿謄本のコピーの添付を行うことができるようになりました。

例えば、遺言書の本文に
「第1条 別紙財産目録1記載の財産をAに相続させる。
 第2条 別紙財産目録2記載の財産をBに相続させる。」などと記載し、パソコンで作成した財産目録を添付することができます。

(注意点)

  • パソコン等で作成した場合、財産目録の各ページに、署名押印が必要となります(押印は、本文の押印とは別でも可)。
  • 自書によらない財産目録は、独立した用紙にする必要があります。遺言書の本文と同一の用紙に自書によらない記載することはできません。
  • 財産目録を添付する方法について、特別な定めはありませんが、遺言書の一体性を明らかにし、また、偽造を防止する観点からは契印等を行うことが望ましいと考えられます。

3 遺言書の保管について

 相続法の改正と同時に、法務局における遺言書の保管等に関する法律(平成30年法律第73号)が成立しました(同年7月13日公布)。これにより、施行日である2020年7月10日より、法務局において、自筆証書遺言を保管できることとなりました。
 法務局に自筆証書遺言を保管することにより、遺言書の紛失等を防止できます。また、自筆証書遺言は、家庭裁判所による検認手続を経てからでないと遺言の執行ができませんが、法務局に遺言を保管する場合、遺言書の検認手続が不要になるなどのメリットがあります。

第2 遺産分割前の預貯金の払戻制度

1 平成28年12月19日最高裁大法廷決定 
 上記最高裁決定により、預貯金債権は遺産分割の対象財産に含まれることとなり、共同相続人による単独での払戻しができないこととされました。
 上記決定を踏まえると、遺産分割が終了するまでの間、預貯金の払戻ができませんので、生活費や葬儀費用の支払、相続財務などの弁済を行うことができないこととなります。そこで、このような不都合を緩和するため、一定の条件で預金の払戻しを行うことができる制度が導入されました。

2 新しい制度(2019年7月1日に施行済み)

(1)遺産分割前の預貯金の払戻制度(民法909条の2)
   ~家庭裁判所の関与なしに払戻しを行う方法~

ア 相続人は

相続開始時の預貯金債権の額×1/3×共同相続人の法定相続分の金額を単独で金融機関に直接請求できます。当面の生活費や葬儀費用の確保が目的とされていますが、法律上使途は問われません。
(例)被相続人の法定相続人が長男、次男の場合、長男の法定相続分は2分の1,預金が600万円だと、600万×1/3×1/2=100万円

イ 注意点

  • 上限額は150万円(平成30年法務省令第29号)です。
  • 金融機関ごとに上限額が定められており、支店ごとではありません。例えば、A銀行のX支店、Y支店など複数支店口座があったとしても、合計して150万円が上限となります。
  • 払戻しを受けるためには,金融機関に対し、戸籍全部事項証明書、法定相続情報一覧図等の戸籍関係書類を提出します。
  • 2019年7月1日(施行日)前に相続が開始した場合でも、施行日以降に金融機関に請求する場合には適用があります。

(2)仮分割の仮処分の制度(家事事件手続法200条第3項)
   ~家庭裁判所の関与により払戻しを行う方法~

ア 家庭裁判所に対して遺産分割の審判または調停の申立てがなされた事案において、相続人の申立てにより、預貯金債権の全部または一部を申立人が仮に取得することができる制度です。
 裁判所において、相続債務の弁済、相続人の生活費の支弁等の預貯金債権を行使する必要性と、他の共同相続人の利益を害しない相当性が認められる必要があります。
 (1)の方法と異なり、上限額の定めはなく、裁判官の判断にゆだねられますが、一般に、預貯金債権については取得を希望する共同相続人が多いと考えられるため、預貯金の総額に申立人の法定相続分を乗じた額の範囲内に限定することが多いと考えられます。

イ 必要書類

 申立てを行うためには、遺産分割調停の申立書類に加えて、仮分割の仮処分の申立書が必要になります。また、仮に取得させるべき預貯金債権の範囲を判断するために、原則として直近の残高証明の提出が必要になるものと考えられます。さらに、仮処分の必要性を判断するために、申立人の収入状況、仮払いを必要とする費目及びその金額を裏付ける資料(請求書、陳述書等)等の提出が必要となるものと考えられます。