「損害賠償金や養育費などの取立て」2019年 冬号

 損害賠償金や養育費などの取立てがしやすくなりました

 金銭を求める訴訟(交通事故の損害賠償請求,貸金の返還請求,売掛金の請求など)で勝訴判決を得たり,調停で養育費の支払い合意を行った場合に,債務者が任意に支払を行わない場合,債権者は,強制執行の申立てを行い,財産の差押などを行って取立を行うことができます。
 令和元年5月10日,民事執行法及び国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律の一部を改正する法律が成立し,損害賠償金や養育費などの取立てがしやすくなりました。
 今回は,民事執行法の改正のポイントについて,取り上げてみたいと思います。


 財産開示手続

 財産開示手続は,債務者を裁判所に呼び出して財産の状況を質問することでその財産を開示させるという仕組みですが,現行制度は使い勝手が悪く,ほとんど利用されていない制度です。
 まず,現行制度では,手続きの申立てができる債権者は,確定判決等を得ている債権者に限られていましたが,申立債権者の範囲が,仮執行宣言付判決を得た債権者や,公正証書により養育費などの支払いを取り決めた債権者にも利用できるように拡大されました。
 また,債務者が裁判所の呼び出しに応じなかったり(不出頭),虚偽陳述を行った場合に対する制裁が,現行法では30万円以下の過料(刑事罰ではない)とされており,財産の開示に応じるよりも30万円払った方が得になってしまうという批判がありました。そこで,改正法では,刑事罰を科すこととし,6月以下の懲役又は50万円以下の罰金ということとしました。

 

3 第三者から債務者財産に関する情報を取得する制度の新設について

⑶ 債務者の預貯金債権等に係る情報の取得
 債務者の預貯金口座を差し押さえるためには,債務者がどこの銀行のどの支店に口座を持っているかを特定しなければならず,預貯金口座の特定ができないため,泣き寝入りをするケースが多くありました。
 改正民事執行法では,債権者は,裁判所を通して,債務者が預貯金口座を保有しているか否か,保有している場合には預貯金口座のある本店支店,預貯金の種類,残高等の情報を求めることができるようになります。また,預貯金以外に,債務者が保有する振替社債等についても同様の情報を振替機関等から債権者は取得することができます。
 従前は,弁護士会を通じて,特定の金融機関についてのみ,上記の情報を取得することができましたが,個人情報を理由に回答を行わない金融機関も存在しており,今回の民事執行法の改正で情報取得が容易になるものです。

4 施行日
 施行日は,公布の日(令和元年5月17日)から1年を超えない範囲内において政令で定める日から施行とされておりますので,来年の春頃には,施行されるものと思われます。
 改正民事執行法が施行されますと,従前は,財産が判明せず,泣き寝入りしていたケースでも取立てが可能となる場合があります。
 ぜひ,弁護士に相談してみてください。