「国・市区町村の取組みの現状や、議論状況について」2020年冬号

 いま,養育費確保の問題を,個人の問題として捉えるのではなく,公的支援を行う動きが本格化しています。
 離婚後の養育費不払い解消へ向けて,令和2年1月に法務大臣が私的勉強会として,「養育費勉強会」を立ち上げ,6月には法務省が「養育費不払い解消に向けた検討会議」を設置しました。また,同月,法務省と厚生労働省が連携を図り,養育費確保のための公的支援の問題を中心に課題整理等を行う「不払い養育費の確保のための支援に関するタスクフォース」も設置されました。
 今回は,国・市区町村の取組みの現状や,議論状況について,紹介をしたいと思います。

●母子世帯の8割近くが養育費の支払いを受けられていない現状

 日本では,離婚した父母のうち非監護親から養育費の支払を受けている監護親の割合は,24.3%にとどまり,非監護親から養育費の支払いを十分に受けていないことが,ひとり親世帯の貧困の要因の一つとなっていると指摘されています。
 子どもが健やかに成長していくためには,養育費の確保が重要です。
 国に先駆けて,市区町村では,養育費を支払ってくれなかった場合に備えて,民間の保証会社が相手に代わって養育費を立替える保証サービスについて保証料を補助する事業を提供したり,公正証書や調停調書作成費用の補助金などを出す取組みが行われています。
 国も,養育費の不払いの解消に取り組むため,法律家,研究者,支援関係者等を構成員とする「養育費不払い解消に向けた検討会議」を設置し,検討を行っています。

●市区町村の先進的な取組みについて明石市の取組み

明石市の取組み
 全ての離婚届用紙に挟み込む形で養育費・面会交流などの取り決めに関する合意書のひな形やパンフレットを配布して,取決めを促がすことで,離婚届の養育費取決めチェック欄に回答している令和元年度の明石市の届出は75%に達しています。
 また,同市が保証料の負担を行い,養育費の不払いがあった場合,利用者は最大12か月の養育費の立替保証を受けられるという養育費立替制度のパイロット事業を実施しています。さらに,新型コロナウィルス感染拡大の影響による緊急対策として,養育費の不払いがあった場合に,市が義務者に支払いを働きかけ,不払いの場合は市が1か月分(上限5万円)を立替・督促・回収する緊急支援を行うなどの取組みを行っています。

港区の取組み
港区の離婚率は全国平均よりも高いそうです。区議や区民から,養育費に関する民間ADR(裁判外紛争解決機関)手続きの利用助成をしていることや,DV加害者プログラムの費用助成制度も創設している点に特色があります。
 ADRを利用することによって,比較的紛争性の低い夫婦の場合に,話し合いにより養育費の支払い,面会交流の取り決めが促進される効果を狙っているようです。

●諸外国には,国が不払い養育費を立替えたり,強制的に回収する制度があります。

韓国
 国の機関が,協議支援,訴訟手続等の法律支援,強制執行支援,制裁措置,所得・財産調査,養育費履行状況のモニタリングなど,一元的に支援を行っています。
 また,子1人当たり月額20万ウォン(約1万7400円)を,養育費を一時的(原則9か月,最長12か月)に,養育費債権者に対し支給し,その後,養育費債務者からその支給額を求償する制度があります。

フィンランド 
 夫婦間で合意された養育費の支払がされない場合に,養育費権利者の親は,社会保険庁に対して養育手当の支給を求めることができ,未成年者一人につき,月額最大167.01€(約2万円 ただし,物価等により毎年変動)を受給することができます。養育手当を支給した後は,国自らが,養育費の支払義務を負う親から,未払いの養育費全額を直接回収してくれ,養育手当を超える回収分は権利者に渡してもらえます。社会保険庁は,義務者の給与や還付金の天引き等の方法により債権回収を行います。

 日本では,国が養育費を立替える制度は現状ありません。また,韓国のように養育費の取決めに関し,一元的に支援を行う国の機関はありませんし,フィンランドのように,給与などから天引きして債権回収を行う制度もありません。

●法務省の有識者会議の検討

①養育費の取決めを増やすための取組み
 養育費の取決め率は,42.9%であり,まずは離婚時の支払いの取決めを増やす必要があります。
 そこで,養育費の取り決めの説明や取り決めを促す内容が記載されているパンフレットを,離婚届用紙を取りに来た人へ配布したり,養育費の金額が計算できるような計算ツールの提供などを行い,養育費の取決めを促すことが検討されています。
 現在は,市区町村によりパンフレットの配布の対応がまちまちのようで,明石市のように離婚届出用紙に織り込んで配布した方が効果的だと言えます。また,養育費の金額については,裁判所のHPに算定表が公開されていますが,存在を知らない方や使い方が分からない方もおり,双方の給与などの基本的情報を入力すれば,養育費の金額が表示されるようなサイトを法務省のHPなどで公開することが望まれます。

 さらに,離婚届出に相談機関に関する情報を記載したり,電話やウェブ,SNS等による専門相談窓口の設置,法テラスに専用ダイヤルを設けることや法テラスにおいて弁護士等による無料電話相談の実施,公証役場を利用しやすくする方法を検討するなどの案が提案されています。養育費の取り決めについて,相談先の情報を得やすくすること,また,相談しやすい環境を整えることが大事だと思います。

②支払が行われない場合の強制執行に備えた,取決めの方法について
 養育費の支払いがなされない場合に強制執行を行うためには,家庭裁判所の調停で調停調書,審判を得たり,公証役場で公正証書の形で養育費の取決めを行う必要があります。

 公証役場では,あらかじめ公正証書の内容につき打ち合わせをしていれば,一日で公正証書の作成を行うことはできますが,費用の問題や,平日の夜間,休日は対応してもらえない点で利用しにくいと言えます。

 また,裁判所の調停手続を利用する場合,公正証書よりも,裁判所に支払う手数料は安価ですが,調停は1か月に1回の頻度で行われるため,時間がかかります(養育費等の事件の平均審理期間は5.3か月)。
 そこで,弁護士等の家事問題に精通した者があっせんを行う裁判外紛争解決手続(ADR)を活用して,養育費の取決め合意を行い,後日,裁判所で調停を即日に成立させる取組みの実施などが提案されています。ADRであれば,頻回に話し合いを行うことができますし,平日夜間や休日は対応してもらうことができ,利用しやすいというメリットもあります。ただ,ADR手続きの利用についても費用が発生するため,国が,港区のように費用助成を行うことなども必要になってくると思います。

③強制徴収制度の創設をはじめとする公的な取立て支援について

 有識者会議では,諸外国の履行確保の制度などを参考に,強制徴収制度の創設に向けて,まずは調査研究を進めるべきであるとされています。
 これに対し,養育費支払期間を全期間とする制度を創設するには,解決すべき課題が多く,時間がかかると思われるため,当面は一定期間に限り,上限金額を設けるなどして,支給を行う緊急措置を創設すべきであるという意見が出されています。
 その他,取立ての方法として,民間の債権回収会社を利用する方法や,保証会社を利用する方法などが検討されていますが,様々な問題が指摘されています。

 有識者会議では,すぐに実現できそうな方策から制度改革など時間を要するものまで様々な議論がなされており,12月に最終取りまとめが出される予定です。
 2020年4月1日には改正民事執行法が施行され,養育費の不払いがあった場合,義務者の勤務先の調査ができるようになるなど,養育費の回収が行いやすく,法制度が変わりました。しかし,勤務先の調査のための手続や,強制執行の申立てを行うのが負担であることは変わりなく,負担を軽減するような支援が必要です。
 子どもの貧困の解消は国の責務であり,養育費の不払いの解消は国が主体的に関与し支援すべき問題です。早急な対応を望みます。