「相続について」2009年夏号

 今回は、相続について、考えたいと思います。
 相続は、その人(被相続人と言います)が死亡したときから始まります。死は、人との永久の別れであり悲しいものですが、生あるものである限り、避けられません。
 身近な人の死に、悲嘆にくれる間もなく、遺産をめぐって壮絶な争いが生じることもあります。
 不老不死の薬はありませんが、財産の争いは、なるべく少ないほうがいいわけです。遺言制度などを上手に使って、争いを避けることが、残された方への思いやりです。
 相続が開始しますと、以下のことが問題となります。

1 遺言の有無

(1)まず大事なのは、遺言があるかどうかです。
 遺言には、自筆証書遺言と公正証書遺言があります。自筆証書遺言には、検認という家庭裁判所の検査のような手続きが必要です。公正証書遺言には、必要ありません。
(2)遺言があれば、まずは、遺言どおりに遺産が分けられます。
 相続人が配偶者(夫または妻)、子ども、あるいは親の場合は、遺留分という権利があります。(相続人が兄弟姉妹である場 合には、遺留分は無いので、遺言は、本当にそのまま生かされます)
 遺留分は、後で説明する法定相続分の半分です。遺留分だけは、遺言があっても、相続人に保障されます。
 例えば、妻と子どもが相続人である場合に、全財産をある団体に寄付する、という遺言がなされていても、遺産の半分は、遺留分として、妻子に保障されることとなります。
(3)遺言の日付は大事です。
 遺言は、その人の最後の意思を大事にしようという制度ですから、複数ある場合には、最後の遺言が優先します。

2 相続人(死亡した人の財産を受け継ぐ人)は誰?

(1)配偶者 夫、または妻がいれば、必ず相続人になります。
 内縁関係の人は含まれません。
(2)配偶者以外では、以下の順番で、相続人となります。
①子ども ②親 ③兄弟姉妹の順で配偶者と共に相続人になります。
 子どもがいれば、親と兄弟は、相続人ではありません。子どもも親もいなければ、兄弟が相続人となります。①子ども、あるいは③兄弟姉妹が相続人となる場合、その相続人が死亡していれば、その人の子どもが代わって相続します(代襲相続)。

3 受け継ぐ遺産について

(1)法定相続分
 一応、民法で、受け継ぐ割合が決まっており、法定相続分と言います。 ①配偶者と子どもが相続人の場合は2ぶんの1ずつ
 例えば、妻と子ども二人が相続人であれば、妻が2分の1。子どもは2分の1を二人で分けますので、一人は4 分の1ずつです。
②配偶者と親が相続人の場合は、妻が3分の2、親が3分の1です。両親ともに相続人となるのであれば、一人6分の1ずつです。
③配偶者と兄弟姉妹が相続人の場合は、配偶者が4分の3です。残の4分の1を兄弟姉妹の人数で分けます。
(2)実際の分け方
 法定相続分は(1)のとおりですが、実際にどう分けるかは、相続人全員の協議により自由に決められます。法定相続分に拘束されません。ただし、相続人全員の合意が必要です。
(3)協議が整わないとき
 相続人で協議しても、まとまらない場合には、家庭裁判所に調停を申し立て、家庭裁判所で話し合うこととなります。それでも、まとまらないと、審判という手続きに移行します。
 審判は、家庭裁判所の手続きである点では、調停と同じですが、最後は、裁判官(審判官といいます)が、「審判」という名前で、決定する手続きです。つまり、相続人全員での合意ができなければ、最後は、「審判」により決められることとなります。
審判では、法律を基準としますので、法定相続分に則って、審判が下されます。法定相続人間で、よくよく話し合うことが大切ですが、話し合いが決裂すれば、最終的には、法定相続分が重視される、ということです。

4 寄与分

 相続人の一部が、店の営業を手伝ったとか、療養監護に努めたなどの「特別の寄与」をした者がある場合には、寄与分として、遺産から取得することができる場合があります。これは、「遺産の維持・増加」に「特別の寄与」をした、ということが要件です。単に、同居して、一定の身の回りの世話をした、というだけでは、「遺産の維持・増加」には関与していない、あるいは、親族として当然の世話をしただけで、「特別の寄与」とはいえない、とされるケースもあります。
 寄与分が認められるか、認められても、具体的額については、なかなか予見が難しいことが多いものです。これを、遺産を残す側から考えると、お世話になった人に、少し多く渡して恩に報いたい、と思えば、遺言をしていたほうが、確実だということです。