遺言のデジタル化が進んでいます

 遺言のデジタル化が進んでいます。
 超高齢社会の日本において、遺言に興味を持つ方も増えています。
 今回の法律通信は「遺言のデジタル化」についてです。
 世の中全般、デジタル技術の活用が進んでいます。距離の離れた人とでも、オンラインで顔を見ながら話すことも簡単になりました。買い物でもネットショッピング、キャッシュレス決済が進んでいます。

 遺言についても、デジタル方式が検討され、実現されようとしています。

 遺言は、その人の最終意思を込め、その人の死後に意向を伝える大事な文書です。そこから、その人の真意を誤りなく伝え、勝手に書き換えられたりしないようにする必要があります。また、残された人の権利に大きな影響を与えるところから、慎重に熟慮を促す必要があるとも考えられています。そうした配慮から、民法では遺言の作成にあたって厳格な方式が定められています。
 遺言にデジタル技術をどのように活用していくのか、公正証書遺言と自筆証書遺言について見てみましょう。

1 公正証書遺言のデジタル化

(1)公正証書遺言の作成

 公正証書遺言は、公証役場で公証人に、公正証書を作成してもらう遺言です。
 公証人が遺言者の遺言能力を確認し、さらに遺言内容についても遺言者の意向を確認して作成します。これにより、遺言が無効となるリスクが大幅に減りますし、遺言が廃棄されたり、隠されてしまったりするリスクもなくなります。
 実際に後日、相続人等が遺言の無効を争うことも少なく、信用性が高い方式です。
 作成に際しては、現在は、公証人の面前で、遺言者から直接、遺言の内容を伝える必要があります。そのため、公正証書遺言を作成する場合には、公証役場に出向くか、公証人に出張してもらい、公証人と直接対面することが必要です。また、公正証書は書面(つまり紙)で作成され、原本はそのまま公証役場に保存されることとなっています。

(2)デジタル化の内容

 公正証書のデジタル化は、実はすでに法律改正はなされていて、本年(2025年)10月1日に、施行されることが決まりました。遺言だけでなく、公正証書すべてにおいて、オンラインによる作成ができるようになります。
 施行されると、オンラインで必要書類を提出し、ウエブ会議システムを通じて公証人とやり取りをし、署名・押印に代えて電子署名をして作成します。つまり、完全オンラインで公正証書遺言を作成することができるようになるのです。
 遺言について、証人2名が必要であること、遺言者が公証人に遺言内容を口頭で伝える(口授)ことなどはそのままです。それらをオンライン、ウエブ会議の方式でできるようになります。

 ただ、オンラインによる作成については、遺言者が希望した場合であることと、公証人が「相当と認めるとき」という要件があります。
 公証人として、希望があった全ての場合にオンライン作成を認めるということではありません。特に遺言の場合は、遺言者の真の意向・希望を確認する必要があります。遺言者以外の人の意向に影響されてしまい、遺言内容が曲げられてしまうことなどは防ぐ必要があります。遺言者自身にとっても、よく検討の上、熟慮して作成されるものであることも大事です。
 こうした要請から、遺言者の心身の状況などで、公職役場に出向くのが難しいなど必要性が高い場合、それとともに、遺言の利害関係者の関与を防げる場所が確保されているかなどの事情を含めて、相当性を公証人が慎重に判断することとされています。その上で公証人が相当と認めた場合に、オンラインによる作成が可能となります。
 なお、オンライン手続きで作成されていない公正証書遺言についても、原本は、原則として電子データで作成・保存されることとなります。但し、書面(紙)による証明書を希望すれば紙で提供されます。

2 自筆証書遺言のデジタル化

(1)検討されている内容

 自筆証書遺言は、その名のとおり、遺言者自身が自筆で書く遺言書です。以前は全文を、自筆で書くことが必要とされていましたが、2019年(平成31年)1月13日からは、財産の目録については自筆で書かなくてもいいことになっています(但し、目録に頁ごとに署名捺印が必要)。

 自分で思いを書いて作成できる自筆証書遺言は、作成に費用もかからず利用しやすいというメリットがあります。しかし、原則として全文を自書するという方法が時代に合わない、また自書に負担を感じる人も多いとして、デジタル化の検討が始まっています。
 こちらは、まだ検討段階ですが、例えば、証人2名の立ち合いの下、パソコンで遺言の全文と日付、証人の名前などを記載した文書を作成し、その経過を録音・録画して、遺言者が自分が作成した遺言であることを口述する、遺言には遺言者と証人が電子署名をする、などの方式が検討されています。この場合、現在の自筆証書遺言と同様、遺言者の死後、家庭裁判所による検認という手続きが必要とされる予定です。

 または、自身でパソコン等で作成した遺言を公的機関で保管するという方式も検討されています。現在、法務局で自筆証書遺言を保管する制度がありますが、自筆の遺言ではなく、パソコンなどで作成した遺言の電磁的記録を公的機関が預かる制度を検討中です。預ける手続きもオンラインで可能とすることが検討されています。

(2)注意点

 デジタル化は、便利な反面、本当に遺言者の真意で作成されているのか、他者が不当な影響力を行使したり、改変してしまうことがないのか、などを検討することが必要です。
 遺言の保管制度は、紛失や他者による改変を防止するものとして有用ですが、具体的な制度の在り方について、様々な議論が進んでいます。全体として、デジタル化は時代の趨勢でもあり、その方向で進んでいくものと思われます。
 全文を自分で書く自筆証書遺言もなくなることはありませんが、押印をどうするか、などが議論されています。
 今後も改正の方向性に注目しましょう。