「ストーカー規制法」2017年夏号

 ストーカー規制法が制定された平成12年の翌年の相談件数は1万4662件でしたが、毎年のように件数は増え続け、平成28年は、2万2737件、警告と禁止命令に至ったケースは過去最多を記録しています。
 芸能活動をしている女子大生が小金井市で刺され重体となった事件も記憶に新しいですが、平成28年12月に改正されたストーカー行為等の規制等に関する法律が、平成29年6月14日に全面施行されましたので、今回は、ストーカー規制法の改正ポイントについて取り上げたいと思います。

1 現行の規制対象行為が拡大されました

⑴ 改正前のストーカー規制法の規制対象行為
 改正前のストーカー規制法では、恋愛感情などを充足する目的で、

①つきまとい・待ち伏せ・立ちふさがり、住居等の付近での見張り、住居等への押しかけ、
②監視していると告げる行為
③面会・交際などの要求
④著しく粗野又は乱暴な言動
⑤無言電話、拒まれたにもかかわらず、連続電話・ファックス・電子メール
⑥汚物などの送付
⑦名誉を傷つけること
⑧性的羞恥心の侵害

 が、規制対象とされています。
⑵ 改正ストーカー規制法で追加された行為
 改正ストーカー規制法(以下、「改正法」と言います)では、①に加えて、住居等の付近をみだりにうろつく行為 を対象に追加されました。改正前 も、被害者の住居などの付近において「見張り」をし、又は「押し掛ける」ことは規制対象でしたが、改正法では、うろつく行為が追加されました。それでは、「見張り」とうろつく行為は何が違うのでしょうか? 「見張り」をしているといえるためには、一定期間監視しているということを疎明する必要があり、そこまでの行為とは言えない行為については、規制対象の行為にあたるといえる かどうか判断が難しいケースがありました。被害者宅の付近をうろつく行為についても、見張られているのと同じくらい、不安を感じるものですので、このような行為についても、規制の対象に追加されました。 また、⑤に加えて、SNS(LINE,Facebook等)を用いたメッセージ送信等、ブログ、SNS等の個人のページにコメント等を送ること、を対象に追加しました。これは、小金井市の事件で、加害者が被害者に対し、Twitterで執拗にメッセージを送ってきたことから、警察にストーカー被害を相談していたにも関わらず、TwitterなどSNSでのメッセージ送信は対象外となっていたことから、対応が遅れたという問題があり、こうした事態を受けて改正されたものです。
 ただし、注意して頂きたいのは、今回の改正法では、SNS などにより被害者に直接的に情報が伝達される方法が規制対象とされているため、例えば、加害者自身のホームページに書き込みをするであるとか、匿名掲示板への書き込みをするなどの行為は直接的に規制の対象となるものではない、ということです。

2 罰則の見直しが行われました

 改正前のストーカー行為罪は、起訴のため告訴が必要でしたが(親告罪)、改正後は、告訴が不要となっています(非親告罪)。ストーカー事案の被害者は加害者が身近な人物であるなどの理由から被害届を出すことをためらうことが多いという実情があり、その間に加害者の行為がエスカレートし重大な犯罪につながるおそれが大きいことなどから、今回、非親告罪とされています。
 また、ストーカー行為罪や、禁止命令等違反罪の罰則についても、おおむね2倍に引き上げられています。たとえば、ストーカー行為罪は、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金⇒1年以下の懲役又は100万円以下の罰金とされています。改正前は比較的軽い罰則であり、多くの加害者は執行猶予、罰金刑などの判決により短期で釈放されている実態がありました。
 しかし、ストーカー行為は被害者に強い不安や恐怖を与える深刻なものや相当長 期間にわたって行われるものなどもあり、重大な犯罪であることを社会に認識させる必要があることや、加害者が治療を受ける動機付けとなりうることなどを踏まえて、罰則 が引き上げられたものです。

3 ストーカー行為等に係る情報提供の禁止が規定されました

 改正法では、ストーカー行為等をするおそれがある者であることを知りながら、その者に対し、被害者の氏名、住所などの被害者情報を提供することを禁止しています。ストーカー事案では、被害者が避難などをして元の住居を離れた後に、加害者が調査会社に委託するなどして、様々な手法で被害者の居場所を探し出そうとする傾向があります。このような実態を踏まえ、情報提供を禁止し、ストーカー行為等の未然防止、拡大防止を行うものです。

4 その他にも、ストーカー行為に対する禁止命令を迅速に出せるような手続の改正なども行われています

 ストーカー行為は、行為がエスカレートし、重大な犯罪につながるおそれが大きいです。今回の改正により、規制対象が拡大され、被害の防止への対応が行いやすくなったといえます。
 もしも、ストーカー被害にあっているという方がいらっしゃれば、早めに、警察や法律の専門家である弁護士などに相談することをお勧めします。