~これからの人生を安心して過ごすために
1 終活って何をするの?
終活が流行っています。人生の終わりを見据えて、今できる対策を考えようということです。一昔前までは、老後は子や親族がいることから考える必要がないものでした。
しかし、現在は、無縁社会と言われ、また超高齢社会が進行しています。近くに頼れる親族がいない、あるいは親族には頼りたくないと言う人が年々増えています。
他方、医療や福祉の現場では、その人本人の意思・意向・希望を大事にしようという方向が言われています。
そこから、自分の老後を自身で思い描き、そのための準備をし、自分らしい人生を歩む準備をするのが終活だと言えます。
2 終活の手順
終活は、自分の人生を準備するものです。まずは、自分自身が、どんな人生を送っていきたいかを考えることが大事です。
このためには、エンディングノートと言われるものがいろいろと出回っています。自治体で配っているところもあるようです。これを活用して、記入をしながらいろいろと思いをめぐらすのもいい方法だと思います。
また、一度、決めてもそれに固執しないことも大事です。自分も社会も、常に変化しています。今の状況に合わせて、また社会や周囲の状況にも合わせて、計画を変更していく柔軟性も大事です。
そのためには情報収集も必要です。弁護士や各市区の社会福祉協議会、介護保険サービスを利用していればケアマネさんなどに相談してみると新しい情報が得られることもあります。
3 よく挙げられる課題
高齢になると直面する悩みは、以下のものがよく聞かれます。
⑴ 足腰が弱って、買物や銀行からお金を下ろしてくるのが大変。
高齢になると足腰が弱るのは誰にでも起こることです。自宅内に手すりをつけたり、外出する時の支援などは介護保険のサービスを利用することができます。
しかし、買物代行や銀行からのお金を下ろしてくるなど、お金を扱うことには利用できないのが一般的です。この場合、社会福祉協議会が行っている地域福祉権利擁護事業(全国的には日常生活自立支援事業)で預貯金の管理や払戻の援助などをしています。判断能力に課題があることが要件であり、事業のキャパシティーもありますが、利用できないか相談してみましょう。
昨今は、スーパーやコンビニの配達サービスも充実していますので、そちらの利用も検討してみましょう。
⑵ 認知症になって自分の財産の管理ができなくなるかもしれない。
日本の現在の高齢化率(65歳以上が全人口に占める割合)は29.3%、世界トップの超高齢社会です。今後もその高齢化率は増加し続けます。また、一人暮らしの高齢者も増加しています。
⑶ 入院や施設への入所の際に、身元保証人・身元引受人が求められる。
病院の入院の際には、身元保証人がいないからと言って入院を断ってはいけない、との通知が出ていますので、治療の必要があるのに入院できないということはありません。
有料老人ホームなどの施設入所に際しては、身元保証人・引受人が必要とされるのが一般的です。
⑷ 自分の葬儀や納骨は誰が行ってくれるのか、心配。
死後事務と言われているものです。
4 備え
このような課題に備える制度として、任意後見契約、財産管理契約、死後事務委任契約、遺言などがあります。
⑴ 任意後見制度、財産管理契約
認知症などの判断能力の低下に備え、自分が信頼できる人(仮に「Aさん」とします)を予め自分の後見人として指定しておくのが任意後見契約です。判断能力が低下した後に家庭裁判所が任意後見監督人を選任し、その監督の下でAさんが任意後見人として仕事を始めます。任意後見監督人や家庭裁判所という公的な監督があるという安心感がある制度です。
判断能力低下の前にもAさんの支援が受けられるように財産管理契約も同時に締結することが多いです。
任意後見契約と財産管理契約を締結していると、Aさんを施設入所の際の身元引受人として、施設入所が可能となる場合がほとんどです。但し、Aさんは親族ではないため、債務の保証はできません。
Aさんとの財産管理契約の内容にもよりますが、日常的な金銭管理や買物等につき支援を受けることも可能です。どのような支援が必要か、可能か、Aさんとよく相談しましょう。
(2) 死後事務委任契約
自身の葬儀や納骨(死後事務と言われています)について不安がある場合、死後事務を任せる内容の死後事務委任契約を締結する人も増えています。
前記の任意後見契約と財産管理契約を締結している信頼できるAさんと死後事務委任契約も締結し、葬儀や納骨を依頼するという場合も多いです。
葬儀についての希望も、きちんと伝えておきましょう。死亡の際に連絡してほしい人は名簿にして渡しておきましょう。葬儀のやり方や納骨の場所などについてもきちんと伝えておけば希望通りになります。
葬儀等にかかる費用については、大まかな金額を預けておくことも必要となります。
(3) 遺言
遺言によって自分の財産の死後の行方を決めておくことが出来ます。法定相続人がいない場合、遺言が無ければ遺産は国庫に納められます。お世話になった人や団体に寄付したいなどの希望があれば、遺言を書いておくことで実現できます。
また、遺言執行者を決めておくとその人が遺言を責任もって実現してくれます。前記のAさんを遺言執行者とし、生前からの財産管理、死後事務を依頼し、最後に遺言執行者として遺産を希望通りに寄付等してもらう、ということも出来ます。
自身の希望をよく伝えておいて、老後から死後まで、サポートする体制を作っておくと安心です。
5 高齢者等終身サポート事業
高齢者の悩みに対応して、身元保証や死後事務、日常生活支援等のサービスを行うのは、弁護士等の専門職も行っていますが、それ以外の事業者も増えてきています。
これらの事業者の中には、料金体系が明確ではなく、高額な前払い金や預け金を要求したり、業者への寄付や遺贈が必須となっているなどの問題がある場合があります。国民生活センターにも苦情や相談が寄せられています。
このため、これらの事業を「高齢者等終身サポート事業」として、国が2024年6月11日にガイドラインを発表しています。ただ、ガイドラインですので、違反しても罰則はなく、特定の監督官庁もありません。優良な事業者を認定するような制度もありません。今後、国による更なる施策が期待されます。
6 終わりに
超高齢社会、かつ、誰でも認知症になり得る社会で、誰もが安心して自分の人生を全うできるよう、制度をよく知って、上手に利用しましょう。