今回は、成年後見制度についてです。
後見人という言葉を聞いたことがあると思います。
超高齢社会と言われる日本において、介護保険が始まったと同時に2000年4月から、今の成年後見制度が始まっています。その概要を紹介します。
さらに、今、この制度をより良いものにし、社会全体も、誰もが生活しやすいものにしていこうと改正の論議がなされています。
1 成年後見制度を知っていますか?
2000年から、認知症、知的障害、精神障害などの判断能力に困難を抱える人に支援者を選任する制度として、成年後見制度が始まっています。
本人の判断能力の困難性の程度に応じて、後見(判断能力を欠いている)、保佐(判断能力が著しく不十分)、補助(判断能力が不十分)の3類型に分かれていて、それぞれ成年後見人、保佐人、補助人が選任されます。
2 一番利用の多い後見類型について説明します
4親等内の親族や、本人の住所地の首長が家庭裁判所に後見開始の審判を申立てると、成年後見人が選任されます。成年後見人は本人の法定代理人であり、本人に代わって財産管理を行います。通帳やカードは、成年後見人が保管し、本人のために使用していくのが一般的です。
また、本人に必要な福祉サービス(介護保険サービスや障害福祉サービス)についても検討したり、契約したりします。特別養護老人ホームなどの施設入所が必要であれば、申込や入所契約を行い、その後の費用支払いも行っていきます。
3 後見人には誰がなるの?
後見人になるために、特別な資格は、法律上は要求されていませんが、現状では、専門職(弁護士、司法書士、社会福祉士など)が8割程度となっています。
これに対しては、「同居の子になってほしいと思っていたのに、全然知らない専門職が選任された」など、後見人の人選に不満や批判が言われることがあります。
後見人に誰が選任されるかは、最終的には担当裁判官が決めることとなっていて、その人選には異議申し立てできません。
申立てる際に、候補者を挙げることはできます。そのケースが、親族間で意見の違いがない場合や専門性が必要な課題(遺産分割などの法的課題や財産が高額など)が無ければ、候補者がそのまま選任される場合がほとんどです。また、財産が高額、という場合には、候補者を後見人とした上で、専門職の後見監督人が選任されることも多くあります。
また、当初は、専門職が後見人に選任されたものの、専門性が必要な課題が解決した場合には、親族後見人や地域で養成されている市民後見人に後見人を変わる(リレー方式と言われています)ことも行われています。
4 後見制度改正の動き
このような後見制度ですが、現在、法改正が議論されていて、数年後には変わっていくようです。
一番の課題は、現在の制度は、一度後見人が選任されると、原則として一生続いていく、というところにあります。
例えば、本人の父親が亡くなり、遺産分割の必要性があって申立てられた場合、遺産分割という法的課題があることから弁護士後見人が選任されたとします。遺産分割が終了すれば、あとには特別の法的課題がない、という場合があります。元の平穏な日常生活に戻ったけれども、後見制度は、本人の判断能力が回復しないと取り消せない、ということになっているため、亡くなるまで後見人が財産を管理し続けることとなります。
しかし、後見人に遺産分割協議だけを行えば、財産管理は本人が行えている、あるいは家族の中で管理できている、というような場合もままあります。
現行の制度は、実際のケースの具体的内容に合わせるのではなく、一律に権限が定められているため、実情と合わない場合があるのです。
さらに、2014年に我が国も批准し、法的拘束力がある障害者権利条約では、日本の成年後見制度のような法定代理人による代理・代行決定の制度は、障害を理由とする差別であるので、廃止すべきとされています。
基本的人権である自己決定権を尊重し、他者である成年後見人が決定(代理・代行決定)するのではなく、本人自身の意思決定を支援していく仕組みに転換していくことが強く求められています。
現行の成年後見制度を、必要な時に必要な範囲と期間に利用し、他者決定ではなく、本人の意思決定を支援する制度とするため、白熱した議論がなされています。
これについては、現在、弁護士をはじめとした専門職、当事者団体、学者、最高裁判所、法務省、厚生労働省から委員が出て、研究会が設けられ、議論されています。(公益社団法人商事法務研究会に「成年後見制度の在り方に関する研究会」)
障害を持つ人たちを含め、誰もが自分のことは自分で決めていく、そのために必要な情報取得等の支援を受けられる、そんな社会が出来ていけば、誰にとっても暮らしやすい社会になると思います。私たちの社会の在り方にも影響がある制度改正に、ご注目ください。