1 はじめに
最近では、「就活」や「婚活」「妊活」という言葉と並んで、「終活」という言葉も良く聞かれます。「終活」とは、人生の終わりをより良いものとするために事前に準備をしておく、というものです。我が家では、まだまだ健康な両親から、自分のお葬式や遺灰はこうしてほしいなど、希望が出たりしていますが、これも「終活」というものです。
その他、自分が亡くなった後に遺産を巡って遺族が争いにならないように、又は自分の意思を遺族に伝えるために、遺言の作成をするのも「終活」です。
例えば、子どもがいない場合に夫(妻)に遺産を全て相続させたい、内縁の妻や連れ子に財産を残したい、自分が亡くなった後に家族が遺産分割でもめないようにしておきたい、お世話になった人に譲りたいものがある、というような場合には、遺言書を作成しておくことがおすすめです。
2 遺言の種類
遺言の種類には、①自筆証書遺言、 ②公正証書遺言、③秘密証書遺言の3種類あります。(1)自筆証書遺言
自筆証書遺言は、全文、日付、氏名を自書して、押印する必要があります。紙とペンと印鑑があれば作成でき、紙はチラシの裏でも良いですし、印鑑も 三文判でも良いのですぐに書けます(作成者について争いがないように、実印の方が望ましいですが)。費用もかかりません。 ただし、日付を書き忘れたり、あいまいな場合、要件を満たしません。また、全て自筆で作成する必要があるのでパソコンで本文を作成して署名・押印しても、要件不備で無効となります。このように、ちょっとしたことで要件不備となる危険性があります。
また、遺言で遺産をもらえなくなる推定相続 人が遺言書を破り捨て たり、自分に有利な内容に書き換える など偽造変造の恐れもあります。そもそも、遺言の存在をだれも知らない場合、死後に遺言が発見されない恐れもあります(自筆証書遺言を作成する場合、見つかりやすい場所に保管しておくことが大切ですね)。
さらに、自筆証書遺言に基づき不動産の相続登記や預貯金の相続手続を行う場合、家庭裁判所において検認手続が必要になります。 このように、自筆証書遺言には、安価で迅速に遺言が作成できるというメリットはありますが、作成保管の危険性や検認手続の煩雑さがあります。作成保管に心配がなく、検認手続が不要となる遺言の種類が、下記の公正証書遺言です。
(2)公正証書遺言
公正証書遺言は、公証役場において、口頭で作成したい遺言の内容を説明して、公証人に遺言を作成・保管してもらうというものです。公証人は、豊富な実務経験を有する裁判官・検察官・弁護士の中から任命されており、法律の専門家です。
そのため、公証人が遺言の作成を行うにあたり、要件不備の不安はありません。また、公証役場で保管をするので、紛失・偽造変造の危険もありません。家庭 裁判所の検認手続も必要ありません。自書する必要もないので、手に力が入らない方も作成できますし、公証人は出張もしてくれるので入院や施設に入所している方でも作成が可能です。さらに、公正証書遺言であれば、公証人という公正な第三者が専門家としての立場から遺言者の遺言能力を吟味し、意思を確認し、証人も遺言書の作成に立ち会うため、一般的には遺言能力がなかったとの争いも起こりにくいといえます。
ただし、公証証書遺言を作成するためには、公証人の手数料が必要です。手数料は、相続させる人数や相続させる遺産の価額により決まります。
例えば、総額1億円の財産を、妻に6000万円、長男に4000万円の財産を相続させる場合には、妻の手数料は4万3000円、長男の手数料は2万9000円となり、その合計額は7万2000円となります。さらに、遺言加算として、1万1000円がかかるため、7万2000円に1万1000円を加算した8万3000円が公証人の手数料となります。
このように費用はかかりますが、多くのメリットがあることから、確実に有効な遺言を作りたいという方は、公正証書遺言がお勧めです。
(3)秘密証書遺言
秘密証書遺言は、自分で作って封印した遺言を公証人に保管してもらう方式です。公証人が保管するため、紛失や偽造の危険はありません。自筆証書遺言と異なり、ワープロで作成しても良いです。また、公証人の費用は1万1000円と公正証書遺言よりは安価です。
ただし、自筆証書遺言と同様、要件不備の危険性があります。また、家庭裁判所の検認手続も必要ですので、手続は煩雑です。遺言を保管するために公証役場を利用するのであれば、遺言が無効にならないように、公証人に内容も作成してもらう方が確実でしょう。
以上の通り、遺言の種類について見てきましたが、遺言を作成するのであれば、公正証書遺言が圧倒的におすすめです。
3 遺言の内容についての注意点
(1)遺言能力が問題になりそうな場合
高齢になってから遺言を作成しようと思われる方は多いと思いますが、後日、他の相続人から、認知症などで遺言能力がなかったとして、遺言無効の訴えを提起されることがあります。公正証書の遺言を作成すれば、遺言が無効であると判断 されるリスクは下がりますが、公正証書遺言が無効とされている判決も存在します。遺言能力が問題になりそうな場合は、後日の遺言無効とされないために、医師の立会の下で遺言を作成したり、医師に診断書の作成を依頼し、遺言能力に問題がないことを証明してもらうことが重要です。
(2)遺言の内容が遺留分を侵害するような場合
法定相続人の一部に最低限保障された遺産の取り分のことを遺留分といます。
例えば、配偶者と子が二人いる場合 は、法定相続分は配偶者2分の1、子はそれぞれ4分の1となります。この場合、遺留分の割合は、配偶者4分の1、子はそれぞれ8分の1となります。
遺言の内容を、「配偶者に全て相続させる」としても、子らにはそれぞれ、遺産の8分の1を請求する権利がありますので、遺言の内容を実現できないことがあります。暴力などを理由として、相続させたくない推定相続人がいる場合などには「廃除」という、家庭裁判所を使う制度もあります。
4 最後に
まだまだ元気だから遺言は大丈夫、という方もいらっしゃると思いますが、遺言こそ、元気なときに作成しておくべきものです。夏の夜長に一度、遺言の内容について、検討してみるのも良いかもしれません。